FISHING WITH JOHN
監督、音楽:ジョン・ルーリー
出演:ジョン・ルーリー、ジム・ジャームッシュ、トム・ウェイツ、マット・ディロン、ウィレム・デフォー、デニス・ホッパー
1991年/アメリカ/150分
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カルト的な人気を博すTV番組
「人生は素晴らしい。か?」
帯に書かれたコピーです。
この「か?」の部分に、このTVプログラムのすべてが集約されている気がします。本当はわかっているけれど、どこかとぼけた調子ではぐらかしてみせる。ジョン・ルーリーが非常に魅力的な人物だということがよくわかる作品です。
ジョン・ルーリーについて少し説明すると、アメリカのサックス奏者、俳優、釣りが趣味、と、非凡な才能に恵まれた文句なしにカッコいい人物ですが、釣り場を求めて大自然を闊歩していたのが災いしてか、マダニによって媒介される難病のライム病を発症してしまいます。
何かを得るには何かを捨てなければならない。それが真実だとすれば、逆もまた真なり。ジョンは、ライム病を発症したことにより手足が不自由になり、サックス奏者、俳優、というアイデンティティとも言える活動を休止せざるを得なくなります。彼が次に活動の主軸に置いたのが、絵を描くことでした。冒頭で言及した「か?」の部分が、ジョンの、悲劇の只中にあっても新しい活動に向けて邁進する前向きさを思わせます。
ジョン・ルーリーの絵の特徴は、哲学的とも言えるタイトルと、ストリートアートに通じる人物描写、そして魅力的な構図にあります。ジョン・ルーリーはバスキアと共に絵を描いたこともありました。
2010年ワタリウムで開催された「ジョン・ルーリー展 ドローイング You are Here」は、若者たちで溢れていて、列に並んで順路通りに進まないと鑑賞できないほどでした。アート鑑賞が大衆エンターテイメントとして広く認知されたのを肌で感じた記憶があります。
それから9年の時を経て、再びワタリウムで彼の展示が行われました。
「ジョン・ルーリー展 Walk this way」
(ワタリウム美術館、東京、2019)
特徴であるタイトルや人物描写、構図の妙はそのままに、9年前の展示と比べて、細かく描かれた繊細な表現が増えた印象でした。彼の描画力の進化を感じました。
その展示会で上映されていたのがこの「FISHING WITH JOHN」です。
1991年、アメリカのケーブルチャンネルで放送され、その豪華な出演者たちにも注目が集まり、現在でもカルト的な人気があるTVプログラムです。ジョンが友人たちと辺境におもむき、難易度の高い釣りをする番組。ですが、気は抜けています。ジョンの主演作である「ストレンジャー・ザン・パラダイス」の監督、ジム・ジャームッシュとのシュールなやりとりが楽しいepisode1をはじめ、マット・ディロンが、まだアイドルらしい面影を残すepisode3など、純粋に観ていて楽しい6つのepisodeで構成。デニス・ホッパーがタイで氷抜きの飲み物を注文し直すところなどもクスっとします。
力の抜けたエンターテイメントとしてファンの多い本作ですが、アート的な観点から注目するならepisode2がオススメ。
冒頭のナレーションの後、ジャマイカの川をカヌーを漕ぎなから移動するジョンとトム・ウェイツ。茂った草木越しに見る彼らの構図に、後のジョンの絵画の画面構成に通じる目線を感じます。歩きながら二人が交わす芸術論めいた会話も興味深いです。
画家、ジョン・ルーリーが本格的に誕生する前の、彼の才能の片鱗を探してみるのも一興です。
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