櫻井万里明 個展 「FAM」
会 期:2021年11月20日(土) - 12月5日(日)
時 間:木金 15時-20時 土日 12時-19時
(最終日18時終了)
休 廊:月火水
展覧会URL:
https://wish-less.com/archives/8639
櫻井万里明さんは1996年生まれ、多摩美術大学卒業。在学中よりアーティスト活動を開始され、NIKE、BEAMS、WEGOなど、様々なアパレルやイベントで作品を発表されています。2021年から、マグマさんも在籍しているクリエイティブアソシエーションCEKAIに所属。作品は見たことがある!という方も多いのではないでしょうか?
お名前やSNSでのお顔を拝見しても分かるのですが、若くてかわいい女性の作家さんです。2021年現在において、作家の容姿や性別から記述を始めるのはどうなのか。全くです。怪獣、宇宙人、SF、オモチャ、フィギュア、そんなキーワードが浮かんでくるモチーフから男性が描いていると想像してしまいがちですが、男性らしい、女性らしい、自分がそんな基準で物事を分けて考えているなんてジェンダー問題の根深さが浮上してきます。冒頭から何を言ってるのか。しかし、家族をテーマに描かれた本展の作品には、櫻井さんが持っているフラットな、見習いたいと思う感性が表れていました。
展示風景画像
展示レイアウトは櫻井さん本人によるもの。家族スナップをアルバム台紙に並べた様子を連想させます。
「FAM」
「YES&NO」
「FAMILY PHOTO」
「ONE TEAM」(下)
「TWIN」(上)
「WITH YOU」
異世界の人たちと思っていましたが、表情が人間臭く、似ている知り合いを当てはめてしまうような。
「WE」
こちらは櫻井さんの家族写真だとか。櫻井さんはなんと三卵性の3つ子!真ん中がご本人。
友だち同士が和気あいあいとしている写真かと思いましたが、改めて見直してみると奥の2人はピシッとしていて前の3人をカメラの正面に立たせようとしている気もする。前の3人自由だな。
櫻井さんの作品の特徴の一つといえば、太さが均一でない波打ったような線です。デジタルらしいカクカクした線をイメージされてるのかと思いきや、PCは苦手で大学に入ってから初めて描画アプリケーションに触ったそう。その時、あまりにも得意でないことを痛感し、直に描くしかないと思ったのだとか。
「WITH YOU」部分拡大
絵の具のチューブをギュッと押しつけるなどして生まれる線。デジタルではなくアナログ由来。
今の20代はデジタルツールで絵を描くことに慣れているんだ、という先入観、やめましょう。
櫻井さんが作り出す世界は、実際にはとても身近でパーソナルなものから生まれています。描かれているモチーフも「こういうオモチャが欲しい」というものを描いている。フリマアプリで陶器の置物などを見つけては欲しくなってしまうのだそうです。
「FAM」部分拡大
確かにこういう手の置物、見たことありますね。
櫻井さん的にはここがバスケットボールになっているものが欲しいのだとか。これは見たことない!「左手は添えるだけ」の手をした置物、あったらいいな!!
身近なものを素直に題材としながらも、櫻井さんは表現したい世界観をしっかり持っていらっしゃいます。デジタル由来と勘違いしてしまう理由には6色に限られた色数を使用していることもあげられます。デジタルツールでは、CMYKなどの色の配合を数字で記録しておけば同じ色を再現できることから、同時進行で管理されるPC上のアプリケーションの作品と印象が重なります。今回の展示ではそのような意図ではなく、それぞれの作品が同じ世界に存在するということがわかるように、あらかじめ混色した6色を用意したそうです。全く同じ色は次回作からは出せません。
また、冒頭、私自身の中にあるジェンダーの偏見を反省しておきながら、「絵の中に女性はいないんですか?」と質問してしまいました。本展のステートメントにもあるように、関係性、性別、国、距離感、年齢などの括りを取り払って、一緒にいて心地よい人と空間を共にすることの良さを表していると、櫻井さんは言います。
ここでやっと、ジェンダーを取り払うという文脈には、女性らしい人、男性らしい人の描写は必要ないんだ、と理解できました。人種、国籍、年齢などもそうです。だからこそこの登場人物たちです。自分のステレオタイプな考え方に驚かされます。櫻井さんは彼らを「主人公にも脇役にもなれなかった者たち」と言います。見た目から異質さを感じ取ってしまいますが、これは即ち私たち、広い宇宙のどこかにいそうな普通の人たちの集合写真です。聖人君子でもなく、隣の家のちょっとしたゴシップなども影で言っちゃうような、私たちそのものです。
昨今話題に上がる差別等の問題について、自分はどちらの立場なのか、自分の意見は何か、を明確にしなければならない、という緊張した心境になることがあります。もちろん、自分の意見を持ち、見てもいなかった問題を認識して、考えたり、意識すること自体が大切です。しかしその結果、あなたはあちら側、私はこちら側、となり、意見交換ではなくいがみあってしまってはまた新たな分断が生まれます。櫻井さんの作品には、より根源的な問題を明らかにするような、すべての偏見をリセットできる世界が描かれています。
難しい問題を取り上げているにもかかわらず、鑑賞時にはとてもリラックスした、楽しい気持ちになりました。WISH LESSの永井さんも交えて3人で、作品の中のこの子が好きとか、この子はこんな性格、など、想像やあるあるネタを混ぜ込みながら談笑した、そんな楽しさがあります。きっと櫻井さん自身が、何かの対象を責めたり非難するのでなく「こうだったらいい」「こういうのがいい」という素直な感覚で、鑑賞者を明るくさせる作品を制作しているのだと思います。理屈っぽいレビューを書いておいてこう言うのも何ですが、アートは観て楽しいのが一番です。コンセプトを考察して知的に楽しむもよし、観て直感で元気になるのもよし。押し付けがましくなく、さらりと大切なことに気づかせてくれる才能を、ぜひ観に行ってみてください。
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