川内理香子 個展「Empty Volumes」
会 期:2021年11月27日(土) - 12月26日(日)
時 間:水 - 土 12:00-19:00 / 日 12:00-17:00
休 廊:月火祝
場 所:WAITINGROOM
展覧会URL:
https://waitingroom.jp/exhibitions/empty-volumes/
川内理香子さんの作品を初めて拝見したのは鎌倉画廊でした。粗っぽく端を処理された小さいキャンバスに油絵具を厚く塗りひっかくように描かれた花、相対するように大きなキャンバスに線でダイナミックに描かれた花、さくらんぼやサラミ、栗と同じような描かれ方をしている赤黒い頭部など、エロティックかつグロテスクな作品に惹きつけられました。現在の私を取り巻く環境を顧みるとコロナ禍ということも加担して、食欲とか性欲とか承認欲求といった根源的な欲望も、食事ならUberEATS、人とのコミュニケーションならLINE、承認欲求ならSNSといった風に、インターネットに媒介される機会が増え、画面越しにバーチャルに見えることに慣れてしまった。ややもすれば大した拘りも気づきもなく、生きることの獣的生々しさを自ら希薄にしているのではないかしら? 川内さんの作品から醸し出される獣っぽさ、血の匂いは「生」の魅力として感じられ、とても惹きつけれらたのを覚えています。
注:以下は本展「Empty Volumes」の展示画像ではありません。参考展示風景画像:「Fall 2021」Kamakura Gallery
川内理香子さんは1990年東京都生まれ、2017年多摩美術大学大学院美術研究科、絵画専攻油画研究領域を修了。食への関心を起点に、自己や他者の相互関係の不明瞭さを、様々な媒体を用いて表現している作家です。2021年「TERRADA ART AWARD 2021」においてファイナリスト5組にも選出されています。
川内さんの作品の特徴は線です。川内さんは、アート専門番組【MEET YOUR ART】でのインタビューにおいて、線は、描いた人の呼吸や身体の動きが表れるもの、嘘や着飾りが出来ないもの、人間の根源的な表現方法として捉えていると言及しています。
今回WAITINGROOMにて開催されている「Empty Volumes」では、川内さんが以前より取り組まれてきた針金を用いた作品が多く展示されており、線による表現を拡張するものでした。
「bloom」
「bloom」別角度より撮影
「watching TV」
「watching TV」別角度より撮影
「flowers」
「flowers」別角度より撮影
「buds」
「buds」別角度より撮影
画像では伝わりづらいですが、かなり手前に向かって迫ってくる針金の線。その盛り上がりを写そうと斜めから撮影すると当然また違った形に見え、どの位置から観るのがベストポジションか、作品にとっての正面とはどこなのか、ということを考えてしまいます。キャンバスからはみ出た部分や照明により影として現れる線も、自然と作品として意識するわけですが、そういった無意識に行われる解釈にも、どこまでが作品でどこからが会場なのか、境目の曖昧さという川内さんのテーマが潜んでいることが読み取れます。
以前より線描をする時は、線をモノとして捉えていて針金のような物体を画面に置いていく感覚で描いていた、と言う川内さん。
元来の描き方であるから、実際に針金を使っているにもかかわらず、鉛筆による素描を観ているような、逆転の現象が起きています。
「swelling」
「swelling」部分拡大
「face washing」
「face washing」部分拡大
またこちらの「One」という作品で顕著に表れているのですが、照明が固定されているため影の線は動かず、実物の針金だけが観る位置によって変わります。実物の針金の線は、重なったり大きく離れたり見えるのですが、影の線は一定の位置のまま。他者との距離感は一時的な行動だけでは早々に変わらない、そんなような意味合いを含んでいる印象を受けました。
「One」
「One」別角度より撮影
「One」別角度より撮影
ネオン管の作品は、観る位置でもっとも形が可変して見え、私たちが普通に認識しているモノの曖昧さ、時と場合によってどのようにでも解釈できてしまうことの自由さと不自由さを表しているように思います。
左奥:「when I'm waking up」
右手前:「tumbleweed」
「tumbleweed」
さらに本展では、粘土とメタルという新たな素材を用いた作品が展示されています。
「Face」
「Face」別角度より撮影
「Flower pond」
「Lung」
左奥:「stone henge」
右手前:「Lump」
「Organ」
川内さんの手にかかると、硬くて重いと認識していた鉄が、クリーム状の柔らかい何かのような、ぐちゃっと音のする内蔵のような質感に感じられるから不思議です。自分の意識を超えて自分の中にあるもの、無意識的なこと、そういうものが出た作品はいい作品、と言う川内さんの新たな媒体として、メタルは魅力的な素材なのではないでしょうか。
今回の展示で一番惹かれたのは「Lovers」です。偶発的に起きたものかは不明ですが、大きい作品の中に散りばめられていた「生」の感覚が、どうにも魅力的でした。
「Lovers」
「Lovers」部分拡大
「Lovers」部分拡大
「Lovers」部分拡大
「Lovers」部分拡大
「Lovers」部分拡大
「Lovers」部分拡大
今回は針金やメタルなど冷たく硬い印象の素材が多く使用されていたにもかかわらず、生々しい印象は健在でした。空間でしかないはずの部分に「生」を感じに、ぜひ足を運んでみてください。
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