ホリグチシンゴ 個展
「The Field and Daylight 3.2」
会 期:2021年12月28日(火) - 2022年1月17日(月)
時 間:11:00-20:00 (12月31日(金)と1月17日(月)は17時終了、他、館の営業時間に準ずる)
休 廊:1/1
場 所:阪急MEN’S TOKYO 7F tagboat
展覧会URL:
http://tagboat.co.jp/shingo-horiguchi-the-field-and-daylight-3-2/
ホリグチシンゴさんは1993年生まれ、多摩美術大学絵画学科日本画専攻卒業、多摩美術大学修士課程日本画研究領域修了。紙の模型 (マケット) を撮影してPCに取り込むという段階を経て、日本画の画材を使用して描くというアプローチで作品制作をされています。
亀戸アートセンターさんでのchappyさん個展でお会いして、その際に実際の紙のマケットを見せてもらっていました。
手前は甘酒 (亀戸アートセンターさんで販売) です笑。
マケットの時点で形や柄のオリジナリティがあり完成度が高いです。ミニチュアモデルハウスのような2階部分に乗っている「×」の物体は固定されておらず、乗せ方をいろいろと変えられます。ミニチュアを愛でる感覚に通じ、楽しい、面白いと感じました。
その際、年末に有楽町にあるタグボートさんで個展が開催されるというお話を伺い、行ってまいりました。
「Gear structure」
「Gear structure」部分拡大
「Gear structure」部分拡大
「Gear structure」部分拡大
ミニチュアの部屋がある!
壁 (に見える部分) に貼られた (ように見える) ポスター (に見える画面) のテープ部分 (と感じられる色面) がわずかに盛り上がっていて、その部分の厚みが立体のごとくリアルです。
全体でみるとPC画面のウィンドウが重なったようなデジタル的レイヤー感がある作品ですが、上記に挙げた細部のリアルな厚みで多少脳がバグります。VR空間に入る時に空間認識が微調整されるような感覚です。
「Nighthawks」
「Nighthawks」部分拡大
これは日光写真で和紙に感光したものを繋げたコラージュ作品です。楮の暖かみのある色合いに、青写真の濃い青がいかにも「和」の要素を醸し出していますが、マケットの部分やコラージュのレイアウトに未来っぽさ、デジタル感があり、まるで昭和初期に存在していた人が平成を丸々すっとばして令和以降にタイムスリップして作ったような面白さがあります。和洋折衷ではなく、未来と昔の折衷です。
「Yellow snipper」
「Yellow snipper」部分拡大
左:「Totem ex」
右:「Signals」
左:「Totem gate」
右:「Shaped objects 2021-8」
作品「Totem ex」や「Totem gate」には、マケットを実際に重ねた写真が元になっているからこそ得られる重力感があります。積み木の感覚、ジェンガのバランス。デジタル上での試行錯誤では得られない、自然界のバランスです。
ホリグチさんは、tagboatさんによるアーティストインタビューの中で、「現象」と「作為」という言葉を用いて、自身の作品制作には、偶然に出現する部分と作為的に制作する部分との両方が必要であると述べています。
多くの作家さんが作品制作には偶然性を取り入れることが重要と感じているようです。絵の具が垂れるとか、思考に頼らず手の感覚で描くとか、重力バランスを無視せず立体を倒れないようにするとか、取り入れ方は様々ですが。
偶然性というと、何か自分の力ではないものに頼らないと作品制作ができない、というようなマイナスの思いを感じている、という作家さんもいらっしゃるようにお見受けしますが (私見です、申し訳なさそうに言及したり、はっきりと言語化しにくいと感じている部分のようです) 、それはマイナスではない、とここで断言しておきたいです。いきなり失礼します苦笑。私事ですが、長沢節さんのセツ・モードセミナー (2017年閉校) に通っていた時期があり、ご本人は逝去された後でしたが、卒業生である各先生方にセツ先生の含蓄ある教えが多数伝わっておりました。まさに目から鱗が落ちるような感覚を得た教えの一つに、
「想像だけでものを描くな。なぜか。みんな同じ絵になるからだ」
というのがあります。
この「想像で描く」というのは頭の中で考え、個人個人の「作為」で描く部分です。私たちには個性があると信じていますし、実際、家族や友人、その他知り合う人はそれぞれ違う意見を持ち、衝突したりもします。各々の頭の中で考えていることにも個体差があり、それぞれの想像の中には違う何かが存在しているものと、当たり前のように思っていました。それが、みんな同じ絵になってしまうとは。
しかし、この言葉をきいて、疑いもなく妙に納得した覚えがあります。小学校のお絵描き発表会から刷り込まれた先入観、太陽は赤か黄色、海は青、に始まり、アフリカンアートに見られる類似性とか、日本のアニメ的現代アートの氾濫などです。
よくよく現実を見てみると、自分の部屋のドアノブさえも、面白い形をしている。機能を重視した形。「美」を感じる部分というのは、生物的には健康であること、機能に障りがないことが一つ挙げられます。「アート」の存在意義が新しい価値観を提供すること、だとすれば、美しくかつ物事の違った側面を提示しなければならないアーティストが、自然界の摂理や現実を無視しては行き詰まるのは当然なのかもしれません。「偶然性」とは現実の中にあります。
「Floating space」
「Floating space」部分拡大
同じ形に見える並んだモチーフが、全くのコピーペースト縮小でないところなど。
「Floating space」部分拡大
浮遊しているように見えるには、重力に忠実な部分があった方が認識しやすい。
「C-side」
「Totem junction」
今回、面白いなと思ったのは、重なったモケットをモチーフにした、半立体作品です。
「Shaped objects 2021-6」
「Shaped objects 2021-7」
「Shaped objects 2021-8」
「Shaped objects 2021-9」
厚みのある合板で制作されていて、元は模型という立体が平面になり、また厚みのある平面と立体の間に変換されているというのが面白いです。
「Shaped objects 2021-9」部分拡大
前述のホリグチさんのインタビューを読むと狭間という1つのキーワードが浮上してきます。
ホリグチさんは、現代において「人間」の反対は「機械」や「AI」と捉えられている、とし、一方で近代化する以前は「人間」の反対は「動物」「野獣」だったと言及されています。そして、「機械」と「動物」、その狭間に「人間」がいる。
デジタルとアナログ、未来と昔、平面と立体、偶然と作為。どちらか一方に偏ることで成立する作品もありますが、その狭間にこそ無数の階層があり、未発見の領域がある。
会場にも貼られているCONCEPTの最後は
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簡単に言うと誰も見たとことがない絵を描きたいということです。
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と締めくくられていました。
「Memory gas」
「Memory gas」部分拡大
ホリグチさんの探求の旅はVer.3.2です。時代の狭間の「今、この時」の展覧会と思います。年末、年始の区切りにぜひ足を運んでみてください。
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