ホンマタカシ インスタレーション
「TOKYO NEW SCAPES BY TAKASHI HOMMA」
会 期:2021年12月10日(金) - 2022年1月25日(火)
時 間:11:00-14:00、15:00-19:00
休 廊:水木
場 所:T-HOUSE New Balance
展覧会URL:
うちのサイトでレビューするしない、には一応の決まりを設けていて、だいたい1万〜50万円くらいの価格で作品が買える、というのがそれなんですが、どうしてこういう決まりを設けたかというと、作品を購入したことがない方も展示作品を観ながら「自分が買うならどの作品だろう、、、というより買うの? え? 本当に? どうしよ!」とリアルに悩んで欲しかったりするからです。まぁ、本当に欲しい作品と出会ったら、1万〜50万円くらいという価格設定の意味はないのかもしれません。「ちょっといい家具を買う」という一般庶民の感覚です。
自分事になると世界の見え方はガラリと変わります。そして一度でもアート作品を購入すると、それからはまた深い深い沼が待っており、貴方は、好みの展覧会が開催されていないか、お気に入りの作品の横に収まるいい作品がないか、目利きたちが注目していてまだ購入可能な作家はいないか、等々の情報を貪欲に漁ることになるでしょう、、、あーあ、ようこそ。
ホンマタカシさんがCasa BRUTUSさんにて発表した、2015年からの東京の風景を撮り下ろした連載企画「TOKYO NEW SCAPES」をまとめた同タイトルの特別編集ムックが刊行され、その作品を中心に構成したインスタレーションが T-HOUSE New Balance で開催されています。写真作品を買えるわけではないのですが、来場者は期間中1回、1名につき1枚だけ、展示されているカラープリントを持ち帰ることができます。私も1枚を選ぶのに実に迷い、サイトの趣旨と合致するためレビューさせていただく次第です。
ホンマタカシさんと言えばもはや説明不要の、日本を代表する写真家の一人で、ファッションやカルチャーの分野で数々の雑誌、広告などに作品を発表されています。首都、東京をミクロから俯瞰まで様々な視点を通して捉え、ライフワークとして発表し続けていて、2008年には日本人現代作家として初めてニューヨークのApertureから写真集『TOKYO』が刊行、1993年から2007年までの間に東京をテーマに撮影した作品が収録されました。
本展の中心となる前述の連載企画「TOKYO NEW SCAPES」は、2020年開催 (予定だった) 東京オリンピックに向け、変化していく東京の姿を2015年よりカウントダウン的に追った内容となっています。それらを時系列に1冊にまとめたムックは、その時代を生きていた私たちの、個人的なアーカイブとしても機能しているように思いました。「2020年⚫︎東京オリンピックまで あとーーー日」という表示と共に各写真に関連がある言葉、歌詞、台詞、実況などが記載され、オリンピック開催日の延期が決まったページからは「あとーーー日」の日数も増えている。そうそう、この時はこんなことがあったんだよ、と、未来の誰かに語れるような内容です。
インスタレーションのカラープリントにはカウントダウンも言葉もなく、写真のみがランダムにピクセルのように展示されています。
すでに歯抜け状態。
持ち帰り可能なカラープリントはA4の普通紙のような紙質です。同じものが補充されるそうですが、枚数を決めているようで、なくなってしまう作品もあります。
うーん、どれにしよう。
選べん、、、。複数枚欲しい。
両サイドに展示されている大きいプリント、は選べません、、、。
この写真は会場のT-HOUSE New Balanceを撮ったもの。埼玉県にあった築122年の蔵を解体し現代的な建築と融合させた空間が魅力。
反対側に展示されている写真。ビルの隙間から見える空の狭さが東京らしくていいですね。
この2作品が裏表にプリントされたポスターがあり、店内の商品を購入するともらえるとのこと。
こちらのポスターです。
ムック『TOKYO NEW SCAPES』も販売されています。こちらを店頭で購入してもポスターがもらえます。
悩みに悩んだ挙句、アートが関係していて東京オリンピックそのもの、というような写真を選んでしまいました。この日の私は、少しでも価値のあるもの、意味のあるものを選ぼうと思っていたのかもしれません。もうちょっと、見た目の好みだけで選んでもよかったかな、と今になって思います。
さてどれでしょう? ビフォーアフター。
選ぶという行為を通すと、自分が何に価値があると思っているか、作品のどこに惹かれているのかというのがわかってしまうものなんだなぁ、としみじみ感じます。選んでる最中はテンパってますが。後日、部屋で作品をぼんやり眺めたりしている時に思うところがあったりするわけです。結局は自分。他者の血肉とも言える作品を通しても、自分。そりゃ悩む。悩め、悩め、大いに悩め。
購入したムック『TOKYO NEW SCAPES』をめくってみると、2015年の、まだ何も建ってない国立競技場跡地から始まっていて、その当時の、東京オリンピックが開催される頃には人々の活気も溢れて明るく素晴らしい未来になっていると予想していた感覚が蘇り、それでいて予算の問題とか、築地の移設とか、もう本当にいろんなことを乗り越えてきたんだなぁと、泣きたいような気持ちになりました。けれど今、新型コロナ問題の渦中にいて、未来は何一つ予測できない。この不安に満ちた空気も、普段通り過ぎている景色の中に確実に漂っているわけで、この「今」を人々の様々な言い表せぬ感情と共に正確に後世に伝えるには、ホンマさんのような写真作品が適しているのではないか。何か一つをテーマに撮り続けることで生まれる記録の重要さを改めて実感しました。
「山頂でのウェディングフォトを撮るために、ヴェールを棚引かせるサポートをした友人を加工で綺麗に消す」というストーリーのコマーシャルが批判されたりしてますが、おそらく友人も了承の上のことで、そこよりも、加工可能な写真技術により「記録」という写真の重要な側面が失われる危険性の方が恐ろしかったりします。
ありのままの東京の記録を収めた価値ある作品群です。自分のありのままを見つめに、ぜひ悩みに行ってみてください。
展示風景画像:ホンマタカシ インスタレーション「TOKYO NEW SCAPES BY TAKASHI HOMMA」
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