山口聡一 個展「Portrait」
会 期:2022年1月14日(金) - 2022年2月6日(日)
時 間:12:00-19:00
休 廊:月
場 所:EUKARYOTE
展覧会URL:
https://eukaryote.jp/exhibition/soichi_yamaguchi_solo_2021/
絵の具の重なり。作品をよく観るうちに表面に意識を向ける機会が増えたからか、または、1ミリ以下の絵の具の厚みにも注意を払う作品に出会ったからか、平面と立体の境とはなんだろうと考えるようになったからか、、、とにかく絵の具の重なり、厚みが気になるこの頃です。
山口聡一さんは、1983年生まれ、東京藝術大学大学院修了。GEISAI#9にて金賞 とhiromiyoshii賞を同時受賞、2008年のモスクワビエンナーレや香港のアートフェアへの参加など、国内外で作品を発表されている作家です。
「Overlap of paint」と称されるシリーズは、作品の完成に至るまで何度も塗り重ねられる、または剥ぎ取られたりもする絵の具の重なりに着目し、作者しか見ることのできなかった経緯を分解して立体的なレイヤーのように描いて見せる試みです。絵の具自体がモチーフとなっています。
本展「Portrait」では、古来より描かれてきた肖像画をテーマに「Overlap of paint」の手法を用いて、その構造に迫っています。
「Overlap of paint (Portrait #6) 」
「Overlap of paint (Portrait #2) 」
まずは、1階より。
明るい色彩がポップな雰囲気でかわいいという第一印象です。キャンバスにアクリル絵の具で描かれていますが、例えると、デジタル上で描かれたものの層を回転して見せているようにも見え、機械的な雰囲気もあります。
「Overlap of paint (Portrait #6) 」の、頬の側面や顎下の影を斜めの線で表現されているの、分かるなぁ。イラストなどで人物を描いたときに斜線でシャシャシャと影を描く感じ、漫画表現にもよく見られます。
「Overlap of paint (Portrait #2) 」のほうはけっこうセクシーな胸元なのかな、、、?
「Overlap of paint (Portrait #5) 」
「Overlap of paint (Portrait #5) 」(部分拡大)
こちらの「Overlap of paint (Portrait #5) 」は、ぱっと見て、では何が描かれているかが分からなかったんです。模様のように見えてしまって。3階まで作品を観て、降りてきてようやく分かりました。このPC画面上の画像の方が分かりやすいかも。Portraitに違いありません。どの角度から描かれたものか、皆さん分かりますか?
2階〜3階へ。
「Overlap of paint (pianist) 」
階段を登る際に見える作品。
これも一度分かるとタイトル通りにしか見えないんですが、どうでしょう? 分かりにくかったら目を細めて見てみてください。アハ体験だな。
「Overlap of paint (Slugger) 」
これも一見やばいですね。模様にしか見えない、、、。タイトル見て目を細めましょう。「見えた!」ってなります。ヒントはスラッガーです (タイトルそのまんまですが) 。見えると楽しい。バットを振る腕の伸びと下半身の踏ん張りがよく表現されています。力強いいい絵ですね。観客もチラホラ。
「Overlap of paint (Portrait #1) 」
これは、分かるぞ。
と言いつつ、背景の水色を最前面で髪の輪郭に沿って描き足して、人物の形を浮き上がらせているのでしょうか。
色々と考えてしまいますね。
「Overlap of paint (Portrait #3) 」
髪とか襟元とか、サラッと描かれているのが形状で分かります。余白を活かした手練れの表現か。
左:「Overlap of paint (Face) 」
右:「Overlap of paint (Face2) 」
男性と女性、となんとなく思えてしまう。実際のところはどうなのでしょうか。
「Overlap of paint (Portrait #4) 」
これも模様に見えそうですが、今までの作品で訓練されてくると分かりやすいかも?
「Overlap of paint (Portrait #7) 」
こちらの作品は、さりげなく肌色が最小限なんですよね。背景色が顔に反射しているのでしょうか。またしても手練れの表現?
「Overlap of paint (Portrait #8) 」
この作品があったからこそ、1階の「Overlap of paint (Portrait #5) 」が分かりました。
鼻の輪郭に沿って、左側、エメラルドグリーンの絵の具の筆跡、まさに輪郭のエッジを出す際に使う塗り方。分かるぞー。
「Overlap of paint (Family) 」
白い背景にサラッと、髪と肩の線の表現。「ファミリー」か、いや、いると思ったんですよ、お子が。
「Overlap of paint (Summer beach) 」
「Overlap of paint (Summer beach) 」(部分拡大)
分かるぞー。
「Overlap of paint (Summer beach2) 」
「Overlap of paint (Summer beach2) 」(部分拡大)
分かるぞー2。
一見するだけでも、気持ちが明るくなるような、見た目の魅力もある作品ですが、アハ体験や、各筆跡がどのくらいのスピード感で描かれたのか、層が重なった最終形態は果たしてどのように見えるのか、などを考えて楽しめる、エンターテイメント性もある面白い展示でした。
人が人を描くとはどういうことなのか。カメラが発明されて久しく、必ずしもありのままを写し取る必要がなくなった時代でも肖像画は描かれてきました。現代でもその歴史は続いています。描く対象の性格、心情、歴史、人物史を描くのか。作家は対象に、尊敬、憧憬、その他、何かを感じ取って描くのでしょう。
画像でネタバレしてしまっておりますが、実物はもっと楽しめます。ぜひ足を運んでみてください。
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