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つえたにみさ 個展「POP UP ROOM」
会 期:2022年1月13日(木) - 2022年1月30日(日)
時 間:13:00-19:00(1月30日は17時終了)
休 廊:月火水
場 所:OGU MAG+
展覧会URL:
https://ogumag.wixsite.com/schedule/single-post/つえたにみさ個展-pop-up-room-1月13日-木-30日-日
「売絵」の看板、綺麗な石のついたリング、緑のソファが特徴的な部屋に服、それらがSNSのタイムラインを賑わし、興味をそそられ伺いました。売っているのは絵なのか、アクセサリーなのか、服なのか。
つえたにみささんは東京藝術大学絵画科油画専攻卒業、現在は東京藝術大学美術研究科絵画専攻油画第4研究室修士在学中の作家です。卒業時に作品と共に提出する自画像制作について思い悩んでいたところ、自画像は大学美術館に全員一律5,000円で買い取られると知り、自身の今までの作品をまとめたアーカイブとも言える1冊1,000円の雑誌を5冊納めることにしたそうです。その雑誌『JIGAZO』の内容はつえたにさんのサイトで見ることができますが、『JIGAZO』第2弾は本展会期中に発売予定となっています (ネット予約分は1/28より順次発送)。
会場のOGU MAG+はおしゃれなカフェを新設したギャラリーです。近所の方が多いのか、友人同士や家族連れで賑わっており、靴を脱いで上がる展示室は所狭しというほどに人が集まっていました。1/27より展示室への入場は5名までの制限がかかっているようです。つえたにさんのアクセサリーを熱心に選ぶ多くの来場者がいて、キラキラしたかわいい物の魅力に私もウキウキしました。
入ってすぐ、土間にある大きい作品。コインランドリーから服が飛び出しているように見えますが、、、?
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写真撮ってる人いますね。映えか、ニュース記事か。
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DM等が置かれている場所には陶の花が。SNSを見るとこの陶の花をよく制作されてたり描いたりされています。枯れない花。だけどしおれている? 奥に見えるのはカフェスペース。
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カフェスペースにも作品あります。花好きなのかな?
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これか、「売絵」。
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「トゲのある絵 (2022) 」
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花の表現が先ほどの作品と随分違って見えます。SNSによると「描きたい気がして撮り溜めた空き地のバラ」のようです。
「トゲのある絵 (2022) 」(部分拡大)
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キャンバスの周りにもトゲあり。絵の中のバラのトゲと周りのこのビスには蓄光塗料が塗られていて、電気を消した一瞬光るそうです。
「トゲのある絵 (2022) 」(部分拡大)
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いろいろ仕掛けありますけど、画力、凄い。
空き地のバラと、空き地によく見られるような売地をもじったような売絵の看板ですが、本展ではペインティング作品のプライスリストはなく、欲しい方は売絵に記されているメールアドレスにお問い合わせするようになっています。ん?売絵の看板は作品???
靴を脱いでいよいよ展示室へ。つえたにさんご本人はソファにいらして、『JIGAZO』第2弾の入稿に追われながらも来場者へのケア、声かけなど丁寧に対応されていました。
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ソファの横の壁に貼られた「コインランドリー」と「ええじゃないか」騒動のモチーフ。土間にあった作品の原型です。
つえたにさんが解説してくださって、土間の作品は「高価な服は洗濯されることを想定されてない (汚れたらもう着ない、というお金持ち用) 」ということを耳にしたことから、「ええじゃないか」騒動になぞらえて、コインランドリーから踊り出てくる服という構想になったそうです。
「ええじゃないか」騒動は謎が多いとされていますが、幕府の倒壊を目前に世直し的な風潮を反映した騒動とも言われ、資本主義の倒壊を目前に「え?洗濯を想定されてない服があるって?」と、コインランドリーにぶちこまれていた服たちが一斉に踊り出したら、うん、ええじゃないか。
そして服。
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衣食住がテーマとしてあり、部屋のような展示室が「住」だとすれば、服は「衣」。右の黄色い服は「衣」を「ころも」と読み換え、天ぷらやフライの衣になぞらえたもの。着ると「ヒトフライ」になります。「食」も含まれています。
来場者の方が床置きされている作品に注目され、「これ、トランプですよね?」と質問していました。他、それらしき人も見られます。
「新年会 (2020)」
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「新年会 (2020)」(部分拡大)
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「新年会 (2020)」(部分拡大)
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「新年会 (2020)」(部分拡大)
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この作品の制作当時の環境相が「新年会」というワードを意地でも出さなかったことに着想を得た作品。つえたにさんも絵の中で乾杯しています。
「新年会 (2020)」(部分拡大)
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この特徴的なネイルはつえたにさんですね。ネイルも自身でされているようです。多才。
もうお分かりとは思いますが、本展は「アクセサリーかわいい、欲しい!」で来場しても、もちろん楽しいイベントですが、展示されているペインティング作品は現代社会を絶妙な批判で取り込んでいて、なかなかに考えさせられる、興味深い展覧会なのです。
左:「ユニットバス (2018) 」
右:「内見 (2020) 」
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画像の下に映っているのはベルベットと石のバッグ。ペインティングとファッション雑貨。なぜこの取り合わせでそんなに違和感ないのか、不思議。
「ユニットバス (2018) 」
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第1弾の『JIGAZO』収録作品。紙面にはオーガニック野菜しか食べないという家族 (同居人?) のためにユニットバスをプランターにしてしまったような架空のエピソードが添えられている。
「内見 (2020) 」
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異世界への入り口か?
「肩身の狭い喫煙者 (2021) 」
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以下、つえたにさんのインスタグラムより引用。
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どんどん肩身の狭くなる喫煙者が肩車をしてでもタバコを吸い続けている風景です。場所のモデルは北千住マルイ前。右下には文化庁長官で東京藝大元学長、宮田さんの作品があります。
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喫煙スペースが狭くなっていくことと嗜好品へ依存する人への皮肉でしょうか。
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絵もあって、花もあって、焼き物もある。
大大大人気のリング。人だかりができてまして、この画像は一瞬の、奇跡の一枚です。
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いや、冷静に考えたら、この生産量、凄まじくないですか?
アクセサリー値段表。クラフト紙に手描きイラストの感じとか、これだけ見たら、趣味の手作りアクセサリー即売会なんだけども (実際そうなんだけれども) ペインティング作品を観ちゃってると考えてしまう。とてもうまく擬態したインスタレーションなのか。
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「ポニーテールと念仏(2021)」
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ポニーテールとシュシュ。馬の耳に念仏。
以下、つえたにさんのインスタグラムより引用。
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何処吹く風な馬たちにそれでもどこか願ってしまう、願うことしかできない気持ちを風景にしました。
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数珠でなくてネックレスなところがかっこいい。黒の細い肩紐、先がちょっと剥げたネイルなども。
つえたにさんは純粋にファッションリーダー的センスもあるんですね。だからアクセサリーも人気が出る。
「Stone ring (2021)」
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「Stone ring (2021)」(部分拡大)
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これは見たことあるぞー。ということで「ガブリエル・デストレとその妹」という作品からの引用です。作者不詳で、向かって右がガブリエル・デストレとされ、フランス王アンリ4世の寵愛を受けた人物です。左の妹が乳首をつまんでいるのは王の私生児を身篭ったことを表しているとか、指輪をもっているのは王との正式な結婚を望んでいる意志表示とか推測されてますが、本当のことは分かってないです。そもそもなぜ乳首をつままれると懐妊を示唆してるとなるんですかね? 母乳が絡んでいるの?
作者が意図したこととは全く違う解釈をしていたとしても、絵に魅力があれば、人を惹きつけます。作者が不詳でも、美しいは正義。引用元の「ガブリエル・デストレとその妹」はルーヴル美術館に所蔵されています。
アクセサリーの販売がインスタレーションなんて、考え過ぎなのかしら。実際、かわいいし、つえたにさんはずっと前からアクセサリー作りをされているし、美しい物はそれでよいのですよね。
「Stone ring (2021)」の指輪はつえたにさん制作の指輪に描き換えられてますね。乳首のようなパールが画面とキャンバスの周りにあしらわれています。
「オリンピックパフェ (2020)」
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この作品だけ、ちょっと貧相に見えませんか? パフェに花火もついていて、パーティー感はあるんですが、キャンバスの側面にもなんの工夫もない。
つえたにさんのインスタグラムには、2019年11月に「オリンピックパフェ 2222円(税込)」という作品が載っています。ピンク色の背景に同パフェが描かれ、暑さでアイスが溶けてTOKYOのクッキー部分が落ちていたり、幻なのか、アイス部分と花火がもう一段重なっているようにも見えるF130号 (1940×1620mm)の大きな作品です。新型コロナが大混乱を招く直前の時期の作品で、タイトルの、2,020円に10%の消費税を足した金額というのも微妙さを皮肉っていそう。どうせなら税込で2,020円にしてよ。何よりも、税金ですかね?
「オリンピックパフェ (2020)」は形状はほぼ同じ、ですが、クッキーが落ちるほどアイスが溶ける暑さもなく、同じモチーフとは言え、背景も、テーブルも無くなっています。あれ、ベルギーワッフルどこいった? 作品の大きさは455×333mmと、随分こぢんまりとしました。
そしてパフェは無事、会食にて食されます。
「パフェ会食(2021)」
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アクリル板とマスク。アイス部分はほぼ溶けてカサ増しのコーンフレークばかりになってる?
一連の東京オリンピックの風刺。ううむ、やっぱり油断できません。
アクセサリーやカフェスペース含めての「衣食住」のテーマ、ペインティング、服、陶器、花、お菓子、ネイル、雑誌にまで及ぶつえたにさんの活動すべてが一連の作品である可能性は高く、本当に油断できないです。考えすぎ?
キラキラしたかわいい物に吸い寄せられ、ビーズリングを購入して浮かれている私のSNSの様子。
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リングを見せているようで、自分のネイルを見せているということに自覚的なのはせめてもの救いか。
美しいバラにはトゲがあります。アートをのぞく時、アートもまたこちらをのぞいているのだ。
油断ならないなんて言ってしまいましたが、つえたにさんは来場者をフレンドリーに、かつ手厚くもてなしていらして、活気に溢れた入りやすい会場でした。何よりも、真剣にアクセサリーを選んでいる来場者の高揚した気分を肌で感じて、「欲しい」ってこういうことだよな、と改めて気づかせてくれましたし、そこまで惹きつける物を制作できる才能に脱帽です。
間口は広く、内部は深い。皆さんはこの展示をどう捉えますか? ぜひ、足を運んでみてください。
展示風景画像:つえたにみさ 個展「POP UP ROOM」
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