星谷モモ 個展 「lit」
会 期:2022年1月14日(金) - 2022年2月6日(日)
時 間:12:00-19:00
休 廊:水木
場 所:PAGIC Gallery
展覧会URL:
画像でみると、コラージュと思ってしまう作品。しかし、PAGIC Galleryさんのプレスリリースには
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両親がタイプの違う2人の画家という家庭に育った星谷は、細密画の技術を高く磨きつつもそれに囚われず、感じることを重視した画創りを行っています。
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とあります。星谷モモさんの作品は、紙を支持体に、鉛筆で細密に描かれた人物とパステルやアクリル絵の具で描かれた服やシチュエーション、それらを組み合わせたセンスある構図が魅力です。東京では、本展が初の個展となります。hinさんの展覧会もそうでしたが実物を見た時の驚きがあるのがPAGIC Galleryさんの展覧会の一つの特徴かもしれません。
「Yellow Poppy」
服の柄かな、イエローポピー。Poppyはおじいちゃんの意味もあるみたいですね。このトラは子供の頃から一緒に育っていまはおじいちゃんだけど、なんて会話がありそう。
「Same Old」
よくある話。通り雨のことかな? カップルは雨宿りをきっかけに仲良くなったりするんだよね。
左:「A Confidante」 右:「Vinca Major」
「A Confidante」
秘密を打ち明けられる、女性の親友。
「Vinca Major」
ツルニチニチソウ。花言葉は幼馴染み。
展示されている作品のほとんどは227×227mmと小さめ。なので、鉛筆の部分はかなり細かい表現です。余白も大きく取られていますが、画面の構成や、細密画のモノクロ部分とパステルの色彩のバランスにより物足りなさは感じません。物足りなさどころか、余白の必然性を感じます。
「BESTIE」
マイベストフレンド。
「BESTIE」(部分拡大)
こんなに細かい部分で、写真みたいな目の描写。
「Folly Box」
親子かな? 娘は不機嫌顔。馬鹿げた箱? 欲しくないプレゼントでももらって、私はもう大人なんだから!と臍曲げてるのかも。
そして点。気になりますよね?
星谷さんは在廊されてなかったのですが、PAGIC Galleryのカネコサヤカさんに星谷さんの作品について伺うことができました。この点は「絵のホクロ」だそうです。
絵にホクロ !? と一瞬驚きましたが、なるほど確かに、このホクロがなかったとするとちょっと物足りない。アクセント、チャームポイントとして描かれているようです。ホクロがある作品とない作品がありますがその判断も、星谷さんのセンスのなせるところと言えそう。人間もホクロがある人ない人、それぞれ。
また、顔には目が描かれていないものもあります。目は顔の中でも気持ちや意志が表れやすいところです。作品の意味が限定されないように、目を描かなかったり、描いたとしても視線を逸らす等しているとのこと。写実的に描けるからこそ、目に心情が表れて過ぎて、想像の余地が無くなるのを防いでいるのでしょう。
意味が限定されず、想像の余地があるというのは作品の懐の深さに繋がります。私は、自分のその時の心情や重ねた経験などで鑑賞する度に違って見える作品が好きなので、ミステリ小説や冒険譚は夢中になって読んで結末が分かるとすっかり放置してしまい、純文学のほうをまた読みたいと思ってしまう派です。謎が残っている魅力でしょうか。星谷さんの作品はタイトルと描かれているものに関連があるそうですが、謎が好きな私はすべて分からなくても良いと思っています。
展覧会のタイトル「lit」も酔っ払っている、すげーよかった!なんて意味があり、明かりをともすlightの過去形litが人の顔をぱっと明るく灯すことから来ているスラングです。タイトルを見て、スラングの意味を探して、描かれていない表情や場面の先を想像する。余白がある、とは無限に広がる世界がそこにあるということですね。
「Cheese!」
写真撮るよーって瞬間にひょいとアヒルのぬいぐるみがフレームイン!
「Hermit Crab」
ヤドカリ。セールで買い込んでる人かと思ったら、引っ越し大好きな人だった。宿借り。
「Cook Town」
風船バーンだ。
上:「Crean Up Woman」
下:「Like Attacts Like」
「Like Attracts Like」
似たもの同士。これは目がある。猫目。
「Like Attracts Like」 (部分拡大)
この絵にもホクロありますね。
「Crean Up Woman」
福笑い的な? ハチにお気をつけ。
「Lion's Glasses」
「ライオンのめがね」というフランスの童話がありました。
左:「2 Peas」 右:「Irrfan Khan」
「2 Peas」
似た物同士、瓜二つ? 夫婦が長年連れ添って顔が似てきちゃったのですかね。向かって右の赤いメガネの女性の肩の線が好みです。
「Irrfan Khan」
インドの俳優、イルファーン・カーンさん。2020年に惜しくも亡くなりましたが、星谷さんがお好きな俳優さんだそうです。特定の人物は目がハッキリ。目から伝わることの多さを改めて感じます。
「Briny Briny Briny!」
しょっぱい顔。口元でしょっぱさ伝わってきます。くしゃくしゃの紙を覗かせるセンス。
「PAL」
耳の人 (?) もよく出てくる。それぞれの形が違うからおそらく違う人。耳だけなのになぜか表情が読み取れます。
「Brain Juice」
何やら楽しそう。タバコ持ってるのかと思ったら、耳からなんか出てる。相方の考えが以心伝心して楽しい想像が膨らんでいるのかしら?
「Brain Juice」(部分拡大)
ここは紙がちぎられています。ハサミでカットする部分と手でちぎる部分の使い分け、巧くて唸ってしまう。角の部分、色が変わって黄色なのもすごくいい。
「CHILDFOOD」
子供の頃の話をしている感。
「Neighbor」
またも耳の人。これすごい、耳だけなのに、なんとなく隣の女性を紳士的に見つめる優しい表情が見える!
「Neighbor」(部分拡大)
耳の人のジャケットの切り抜いて見える柄と肘の部分のくるっとしたのがいいなぁ。
人と人、または動物と人、憧れの人、など、あらゆるポジティブな関係性が読みとれて元気をもらえる展示でした。
細密画とラフな描画、両方を足すのはなかなか上手くいかない、打ち消しあってしまう、なんて話を聞いたことがありましたが、突き抜けた技巧と、構図、マチエールに及ぶずば抜けたセンスがあれば問題ないようです。実はキャプションも星谷さん自身が作成されていて、各々形が違うんです。おしゃれだ。
そして大きな一枚の作品。
「Pie in The Sky」
これは左から星谷さんの妹さん、ご本人、お母様、と描かれているそうです。目隠ししたり、メガネしてたり。Pie in The Skyとは、「当てにならない先の楽しみ」という意味があります。雨も降り曇天のような背景と、パイのようで太陽のようなものが覗いている画面に、何かを脈々と受け継ぎながら、楽しみに向かって歩みを進めていく人々、そんな印象を受けました。当てにならない、という自嘲気味なユーモアがかえって強さを感じます。
会場には作品を使ったグッズ等も販売されています。
クッションカバー、Tシャツなど。
目部分が描かれていない顔と、上にチョンとある刺繍のホクロ。刺繍部分は妹さんが担当。
スマホケースもありました。
当初は1/30 (日)で会期終了とのことだったのですが、2/6 (日)まで延長されています。また、延長に合わせて、星谷さん作の”MOMO”レーベルのアクセサリーも入荷しました(画像はPAGIC galleryさんのインスタグラムより)。
驚嘆するほどの絵の巧さを堪能するもよし、余白を想像して楽しむもよし、と色々な要素に着目できる展覧会です。会期延長のこの機会にぜひ足を運んでみてください。
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