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感想 古市牧子 個展 「ヒヒフフイズム」

 

古市牧子 個展 「ヒヒフフイズム」

 

 

会 期:2022年1月15日(土) - 2022年2月6日(日)

時 間:木金 15時-20時 土日 12時-19時

   (最終日18時終了)

休 廊:月火水

場 所:WISH LESS gallery 

展覧会URL:

https://wish-less.com/archives/8676


 

展覧会のお知らせのメインビジュアルに使用されている作品には、中央に覆面レスラーらしき青いマスク、背後に柔道家のような道着を着た人物、手前には複数の手、複数の頭、が描かれています。ヒヒフフイズム? メキシコ出身のレスラーの名前かしら。

 

古市牧子さんは1987年生まれ、2011年ナント美術学校を卒業後、フランス国内を中心に活動されている作家です。水彩表現の一つである滲みが特徴的な作品を多く発表されています。

 

油絵具の厚塗りも好きだけど、水彩の滲みや垂れのような偶発的要素も大好物である私。幼い頃にやった色水遊びで、絵の具同士が混ざり切る前の、煙のような色の広がりが一番キレイに感じたなぁ。

 

「ヒヒフフイズム」とは、古市さんの笑う時の擬声語からきているそうです。メキシコレスラーではありません。水彩の滲みを活かした不思議な世界を覗きに伺ってきました。

 

 

初めに目に入ってくるのは大きなタペストリーです。こちらはファブリックにプリントで制作されていますが、オーロラのような水彩の重なりが美しい。オペラ座の怪人のマスクみたいな目、顎が複数あるように見えます。悪魔を召喚した時のようにも見えますね (召喚したことはありません) 。

 

ところどころに散りばめられた小品も気になる。

 

最初からこの立体に目が釘付けに。素材はなんとフィモ。オーブンレンジで熱を加えると固まるアレです。フィモだけど、水彩みたいに滲んで見えます。


 

「mask」

いやいや、やはりメキシコレスラーではないか。しかし、日本、フランス、アーティスト・イン・レジデンスもカナダ、と古市さんの経歴にメキシコや中南米は出てこないんだよなぁ、、、。

 

「mask」

この顔。舌を出しています。悪魔召喚時か、撤収時ですね。


上左:「blue man」 上右:「blue woman」

下左:「bake neko」 下右:「dragon」

小品にもふんだんに滲みが。水墨のような和風テイストも感じられますが、色がとても美しいです。発色がいいのにスモークがかかっているような。この表現は水彩にしか出せません。

 

左:「Blue cat」 右:「hand」

青猫さんと手。


 

「Blue cat

色が濃いところと、水で薄まったところ。透明感のあるグラデーションで遠近が表現されています。

 

「Blue cat」(部分拡大)

色の塗られていない水彩紙の真っ白い部分と、輪郭の色の濃くなった部分の差から、まるで線があるようにパッキリ浮かび上がるモチーフ。


 

「hand」

青磁のようで、フィモです。「いいね」してるようにも見える。する直前かもしれない。右側に少しサーモンピンク色の部分があるのが何ともツボ。

 

「mask」

見上げればガスマスク。いや、動物の顔かも。


 

「blue bird」

カワセミでしょうか。青い鳥。青の色がキレイだなぁ。 


 

 

そしてこの中央の祭壇。

 

 

中央:「untitled」

 

中央:「shishigami」 「hand」

怪しい教祖の感じしかしない。シシガミ様とのことなので自然崇拝、アミニズムにも通じますね。


 

「mask」

ややチューバッカ?

 

「mask」

ダークなフォースを感じるw


 

「serpent dragon」

少しねぷたの雰囲気もあります。ゆらめく炎の表現が美しいです。火先から煙に変化する感じがわかります。

 

「mask and angel」

こちらは西洋の雰囲気。


 

左:「monkey 1」 右:「monkey 2」

水彩なので保護のアクリル板が光ってしまってますが (すみません) 、こちらは黒い画用紙に白の絵の具だけで描かれています。濃淡の表現に、滲みのテクニックの高さが伺えます。

 

左:「monkey 1」 右:「monkey 2」

いい表情。月に照らされたイメージだそうです。


映り込んだ向かいの机の上には同様の手法で描かれた画集があります。

きえーっ。


 

「fighting」

そしてこのレスラー。やはり謎が多いなぁ。

 

「fighting」(部分拡大)

手が受けています。こちらの手は石膏製。作品には多くの手が現れていますが、混乱というよりは、信仰のような、ゆらめく炎のような動きを感じます。それを厳かに受ける手。


 

「hand」

 

「hand」


 

「bird」

高いところにも作品が。


 

水彩の滲みの技法といえば、花や果物などの静物画がイメージとして浮かぶのですが、古市さんの作品は動物や炎、煙、手など動きを伝える作品が多いです。偶発的に生まれたとも思える滲みが画面のあらゆる箇所で必然的に組み合わさっています。作品に下描きはありませんが、作品外で行われてきたかなりの量のデッサンの積み重ねが、一発勝負とも言える水彩の表現を作品内で組み合わさせ成立させるのを可能にするのでしょう。

 

作品から、アミニズム、信仰などのイメージを感じ取りましたが、滲みという、人間のコントロール下にない事象での表現とそれら超自然的なものが結びつくところに、すんなり納得がいきました。シャーマンのように古市さんは作品と対話し、制作は儀式そのものなのかもしれません。

 

 

「clinging 1」

 

「clinging 2」


 

「monkey 3」

 

「clinging 3」


 

「clinging 4」


「clinging」はしがみつくという意味ですが、このシリーズは『悪魔事典』をめくるようなワクワク感があります。森の奥深くどこからか彼らの声がする、とか、応答してしまうと魂を喰われる、とか。困難を避け、冒険の先に現れるのは中央に座する森の主、1匹のゴリラ (「monkey 3」) 。なんて。

 

 

「what ?」

「あんだって?」


 

「camping」

UMAおる。

 

左:「first kiss」 右:「untitled」

こちらはロマンチック。悪魔やUMA (私の感想です) からの振れ幅の大きさ。

 


「hand」

フィモの手たくさんあります。

意外にも中は空洞。軽いです。


Jon Chandlerさん原作のコミック2作品を、古市さんの作画で描き下ろした10周年記念版。こちらの表紙はヤクザの話。


 

WISH LESSさんのIGTVで古市さんのインタビューを観ることができ、古市さんの活動がわかります。ホテルから洞窟の壁画まで、拡がっていく滲み表現。スケールが大きい! 

 


 

フランスや海外でも評価が高いのは作品の個性が確立されているからと言えます。水彩画というと、カルチャーセンターで静物画を嗜むというイメージが強かったのですが (失礼) 、どこか日本的でもある滲みの表現が独特の色彩によりアップデートされ、かっこいいです。水彩を用いていない立体にも滲みや色彩の妙が表れ、壁画等にも果敢に挑む古市さんの作品が今後どう拡がっていくのかとても楽しみでもあります。

 

実物の色の発色は本当に美しいです。ぜひ足を運んでみてください。

 

 

展示風景画像:古市牧子 個展 「ヒヒフフイズム」


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