髙橋健太 個展 「髙橋健太-save as-」
会 期:2022年2月14日(月) - 2022年2月28日(月)
時 間:11時-17時 ※土は完全予約制
休 廊:日祝
場 所:SEIZAN GALLERY TOKYO 凸
展覧会URL:
SEIZAN GALLERY TOKYO 凸(deco) さんにて「髙橋健太-save as-」が開催、作品「save the city」が展示されました。
SEIZAN GALLERY TOKYO 凸さんは、作家の渾身の作品を1点のみ展示するというコンセプトで運営されているギャラリーです。注目の若手作家から巨匠までを広く取り扱う靖山画廊さんの2階にあるセカンドスペースで、来廊者は作品とじっくり向き合うことになります。美術館において、鑑賞者が作品の前に立つのは平均27秒と言われており、鑑賞の速度についてはアーティストやキュレーターも意識し、工夫を凝らすなどしてきました。ロシアのペンザにあるThe Museum of One Painting は、観客に作家や作品の背景となるような資料的映像をじっくり観せた後に1枚の作品を観せるという映画館のような手法を取っています。SEIZAN GALLERY TOKYO 凸さんで展示される1作品は作家がギャラリーのために新たに制作したもので、作家の表現やコンセプトが凝縮されたものを鑑賞することができます。
髙橋健太さんは1996年生まれ、東京藝術大学絵画科日本画専攻卒業。現在は東京藝術大学大学院版画第一研究室に在籍。日本的なミニマリズムをモダンにまで昇華させた福田平八郎の絵画に影響を受け、日本画という伝統的な描画方法を用いながら自身が生きる現代に即したモチーフを描く作家です。『save as』(名前をつけて保存、別名保存) を制作におけるコンセプト、全作品の共通項としており、2021年にMEDEL GALLERY SHUで行われた個展「FILTER 1MG」では創作活動について、
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“自身の体験や記憶を美術のレイヤーに乗せて上書き保存するような行為、日記・メモのような役割がある”
(「FILTER 1MG」(MEDEL GALLERY SHU、2021)プレスリリースより)
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と言及されています。
本展で展示されている「save the city」は〈city〉シリーズと名付けられた1作品で、多様化により自己を打ち出すことが困難となった現代において、個の集積である街と、そこに散見するグラフィティ表現を別名保存する試みです。グラフィティが持つ社会に対しての主張やタギングに見られる自らの存在を残そうとする性質は、アーティストの制作欲求に通じるものがあるとしています。
「save the city」
背景は馴染みのある縞鋼板(チェッカープレート)です。細長い葉のような滑り止めが互い違いに「×」のように並ぶ鉄鋼製の板を、鈍い輝きや滑り止め部分の反射まで、銀箔を用いてリアルに近い状態にまで再現しています。
(部分拡大)
縞鋼板を銀箔で表現。桃山時代に好まれた豪華絢爛の象徴として装飾的意味合いが強かった背景の箔を、「金属」という物質に回帰させるような使い方です。
(部分拡大)
粒子の粗さを調整できる岩絵具ならではの質感を利用し、サビやシミなどが表現されています。白っぽいシミは鳥のフンが雨に流れたのでしょうか? 不透明な質感から、貝の殻からできている胡粉を使用しているように見えますが、こびりつき方も鳥のフンらしくてリアルです。
(部分拡大)
スプレーで描かれたように見えるグラフィティ部分も、スカイブルーとブラックでは質感が違います。スカイブルーは艶のない不透明感があるのに対し、ブラックは岩絵具の粗めの粒子が照明に当たってキラキラ光って見えます。ラメは入っていませんが、まるでラメ入りスプレーでペイントされたようです。
(部分拡大)
角度を変えて観ると粒子の光り方も変わります。
(部分拡大)
別角度より。
(部分拡大)
NINJAと読めます。タグっぽい。
改めて全体をみると縞鋼板がラグジュアリーブランドのモノグラムのようにも見え、2021年に発表され賛否が問われた(注) バレンシアガ × GUCCI「The Hacker Project」のグラフィティ・トートバッグに似て見えなくもないです。事実、日本画の画材は高価なものが多く、この作品の場合は、鉄鋼製の縞鋼板が銀箔に、ラメが実際に砕かれた石の粒子にと、高価なものに置き換わっています (余談ですが、岩絵具の本瑠璃はラピスラズリからできており、とても高価で、村上隆さんが東京藝術大学卒業時にバイトで貯めたおよそ30万円を使って購入した本瑠璃一色で画面を埋めた作品を提出し、教授に「お前、本気だな」と言われたというエピソードを読んだことがあります。出典元が思い出せないのですが) 。
滑り止めがついている縞鋼板の多くはスロープのような緩い傾斜で使用され、グラフィティがそこに書かれたらドリップと呼ばれるインクの垂れは通常起こらないはずで、この場合は縞鋼板が垂直に立てられていると見ると、この「save the city」は、ありそうであまり見ない光景、それこそが「そのまま保存」ではなく「別名で保存」ということであり、作品である所以と言えます。精巧に現実をコピーしたようで、街やそこに存在するグラフィティのテイストをコピーしている。そのテイストの中には昨今のラグジュラリーブランドとストリート・アートの関係性をも連想させる空気感が取り込まれている。
グラフィティと言えば、今は無くなってしまった桜木町高架下のグラフィティを撮影した貴重な動画がTVKのYoutubeで2013年に共有されているのを、大山エンリコイサムさんがツイートしていました。桜木町の高架下はとても有名で、グラフィティに詳しくなくても存在を知っている人は多かったのですが、跡形もなくなってから久しく、今後、かつてここに聖地とまで呼ばれたグラフィティ文化があったことを知る人はどんどん少なくなっていくのかもしれません。
Google検索でヒットするものには限界があり、街の様子、その時のその時代の空気感を記録することは本当に難しいように感じます。語り部のように、その時を生きていた人にしか分からない、伝えられないことも多いです。アート作品として『save as』していくという高橋さんの試みには興味深いものがあります。
日本の伝統的な描画法を使用して描かれた現代。「今」の空気感を味わいに、ぜひ足を運んでみてください。
(注) 銀座松屋のバレンシアガのショーウィンドウに大きく書かれた「GUCCI」の文字のプロモーション等、グラフィティ・ライターKIDULTの「ブランダライジング」(= ブランド+ヴァンダライズ(破壊行為) = ラグジュラリーブランドのショーウィンドウ目一杯にタギングする手法) のパロディであるような見せ方が一部の人の反感を買った。KIDULTの活動の根幹には「資本主義の闇」に対する憎悪があるが、それを本質で理解しているのか疑問が残る安易な引用とも取れる。理解しているとしたら強者が弱者の反抗をせせら笑っているようで、いずれにしても悪手。ショーウィンドウの「GUCCI」の文字も実際のペイントではなく原状復帰が容易なようにプリントを貼ったものだった。都築響一さんのROADSIDERS 編集後記に詳しく書かれている。
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