tree13(ナム13) 作品展示・販売会
「純正 -STRAIGHT-」
会 期:2022年2月5日(土) - 2022年3月4日(金)
時 間:10時30分-21時
場 所:GINZA SIX 6F
銀座 蔦屋書店スターバックス前 平台
展覧会URL:
https://store.tsite.jp/ginza/event/humanities/24588-1617190126.html
銀座 蔦屋書店ではイベントスペース等々で様々なアート作品の展示が行われていますが、エスカレーターを上がってすぐのスターバックス前のスペースは、小さいながらも目を引く展示が催されていたりします。
本展のtree13さんの展示も、金網にネオン、ラジカセ、iMac、など80年代〜90年代の懐かしくも人気が再燃しつつある電化製品が並んでおり、思わず足を止めてしまいました。
金網、黒と赤のカラーの組み合わせ、ブルーのコンテナなどが80年代〜90年代「らしい」。
赤と言えば「AKIRA」(1988年)を思わせます。アニメーション映画でありながら大人向けのストーリーが世界に与えた衝撃はもちろんのこと、金田のバイクがスライドしながら止まる有名なシーンや、バイクのテールランプの軌道が尾を引いて残るビジュアルの斬新さもあり、「ジャパニメーション=クール」と認識されたきっかけになった映画でもあります。
ブルーのプラスチックコンテナも、電子部品や半導体パーツがごちゃっと売られている秋葉原の光景を思わせ、「発展途上的イメージのアジア × 最先端の技術」という組み合わせは、ウィリアム・ギブスンの小説『ニューロマンサー』(1984年)や、士郎正宗による原作漫画を押井守が映像化した「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」(1995年)など、多くの作品に登場しています。
あ、これ観たことある、と言ってしまいそうなビジュアル。カラーリングや顔、字のスタイルやレイアウト等が既存のアニメ映画のポスターのようです。もちろんこのアニメは架空ですが、うーん、本当に観たことなかったっけ、、、とまだ記憶をたどってしまう。しかし、めっちゃかっこいいな。
tree13さんは韓国在住のイラストレーターです。自身によるメインビジュアルの説明文には
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結構長い時間、私のオリジン(根本)について考えました。何を描くのが正解なのか、何が一番良いのか、このままで大丈夫なのか。チューニングの最後は純正だという言葉があります。やっぱり、何になろうが、私が描いて楽しいことを描くのが最高だと思います。その気持ちで、直進信号を少し皆さんにお送りいたします。純正ストレートです。
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とあります。
また、「人と人の素直な心の会話が難しい世の中」において「私自身が私としていられるようにすることが何なのかを、考え」「自分が好きなものを共にするために絵を描いていたことを、ずいぶん長い間忘れて生きていた」ことに気がついた、とも言及されています。
韓国在中とありますが、作品からは80年代〜90年代のジャパニメーションや当時のカルチャーからの影響が色濃いように思います。
厚みのあるモニターと、レコードジャケットのような散りばめられたビジュアル。
iMac G3もいる!
本展ではドローイングとセル画、アパレルやグッズ等に加え、ディスプレイされている電子機器も一部販売されていました。
「【原画】セル画OHKA野球2 (セット)」
「LOVE&PEACE 受注生産LPアート」
この下の赤いラジカセは売られていませんでした。なぜだー!残念。
左 :「2022 イラストアートブック 純正ストレート」
中央 : National RS-4150 (ラジカセ)
右 :「LOVE&PEACE 受注生産LPアート(紙スリーブ部分)」
こちらのラジカセは販売有り。稼働するそうです。
レコード盤部分 :「RECORD 受注生産LPアート」
受注生産LPアートは実際のレコードにtree13さんのイラストが印刷された作品です。紙スリーブ裏面にサインが添えられます。オープンエディション。音は鳴りません。このようにターンテーブルに乗せて見せるのもかっこいいですね。
左 :「【原画】スケッチ_Soundround_2022」
右 :「【原画】スケッチ_my life for CAMPING」
中央 : National RF-2800 (ラジオ)
浦沢直樹さんや貞本義行さんの影響もありそうですね。
上 :「【原画】スケッチ_ohka_2022」
下左 :「【原画】アナログアート sonagi」
下右 :「【原画】アナログアート candypop summer」
「【原画】スケッチ_OHKA X Yokomichi」
「カレンダー2022」
SONY CFS-F10 (ラジカセ)
個人的にカセットブームに乗っかりたいのでラジカセ欲しい、、、。昔のデザインが十分にかっこいい。
上:Philips Your TV (テレビ)
下:Apple Macintosh PLUS (PC)
右:Philips Discoverer (テレビ)
KENWOODのスピーカーは販売されてません、残念。しかし、このフルフェイスのヘルメットみたいなのがテレビとはー。
こちらの電子機器を購入の場合は展示が終了してから約1ヶ月後が目安で、PCやテレビは基本インテリアオブジェとしての販売のようです。各商品の状態も作品リストに記述があります。
80年代のSFに描かれる21世紀は現実の今よりもはるかにテクノロジーが進んでいる描写 (人為的にサイコキネシスを身につけたり、電脳化したりなど) もありながら、スマートフォンの出現を予測できた作品はほとんどなかったりします。現実的なものはあまりワクワクしなかったのでしょうか。ユリ・ゲラーに代表される超能力者ブームや、1999年に終末が来るとしたノストラダムスの予言などもあり、「未来」に対する興味に溢れていた当時は、破滅的でありながらどこかワクワクするような、人類が終末でさえも克服できるような世界観を描いていました。
実際の世界で大きな革命をもたらしたのはインターネットよりもスマートフォンのほうなのではないかと思っています。いつでもどこでも連絡が取れる、繋がれる、調べられる、表現できるというような手軽さが、現実世界よりもネットの中を充足させ、図らずも人間をバイオロイド化してしまったのではないか。「アップルシード」(原作は80年代、映画は2004年) では、人間同士の無用な衝突を避ける緩衝剤として感情抑制されたバイオロイドという存在がいます。映画の中で、怒鳴っている人間を見ながら「人間は感情を露わにするから苦手」と言うシーンがあり、観ていた当時は、むしろ無感情のバイオロイドたちに違和感を感じていたのですが、2022年の今、公の場で怒鳴る人はクレーマーかヒステリーのように見え、同じように「苦手だ」と自然に思ってしまう自分がいます。実際には人間は穏やかになったのではなく、匿名のSNSの場では以前よりも辛辣な言葉で非難することも可能です。生身の人間の顔が見えないから残酷になれる。現実世界は感情抑制、ネットでは感情解放、という状態です。そのせいもあってか、代表的なものとして「新世紀エヴァンゲリオン」などは、まず、諦めがあって、抗い難い現実もあって、自身の本音を現実世界にぶつけることが成長の段階としてストーリーに取り込まれていたりします。主人公が何かしらの通過儀礼を経て現実に向き合っていく物語です (年代で区切ってしまうとアニメ版は90年代後半なので携帯やスマートフォンの普及からそうなったという理論が破綻するのですが、庵野秀明が完結させたのが2021年というところで、作品のテーマと世間の環境が追いついたためにやっと完結できたのだ、と半ば強引に解釈してます。90年代から見た「新世紀」は21世紀ですし!)。
一方、80年代〜90年代のジャパニメーションでは、80年代後半から90年代前半のバブル期の元気な日本という背景もあって、登場人物は今より感情的で欲望に忠実で生き生きと見え、自分を既に確立した上で困難を乗り超えていくように見えます。
そんなエネルギーがtree13さんの展示からも感じられました。前述の説明文やステートメントを読むに、自身のオリジンを探求しているところなど、十分に21世紀の作家という印象はありますが、2000年以前のサブカルチャーをモチーフに作品制作をしているとのことなので、希望に溢れていた時代の日本のコンテンツを、少し距離を置いたところから、正確に写し取っているのかも知れません。
雰囲気だけ写し取ると下位互換になりがちですが、tree13さんの作品からはあまりそれを感じません。本当に好きで描いているのがわかります。
純正というと、製造メーカー製の部品を純正品と呼ぶことから「純粋に正しい」というようなことを連想しがちですが、「学術、理論を主として、応用や実利に及ばないこと」(精選版 日本国語大辞典より) という意味もあります。tree13さんは、80年代〜90年代のジャパニメーション表現をそのままに継承しているという意味においてまさに「純正ストレート」であるのでしょう。
この「型の継承」は、トレース、パクリ、模倣とは一線を画するものです。KITSUNE MUSICとのコラボレーションなど、すでに活躍の場を世界に広げているtree13さん。剣道、柔道、華道、茶道、などの「道」という東洋思想の中の「守破離」のように、tree13さんの「純正」が今後どう変化していくのか、楽しみでもあります。
ぜひ足を運んでみてください。
展示風景画像:tree13 作品展示・販売会「純正 -STRAIGHT-」
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