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感想 梅原義幸 個展「FACE」

 

梅原義幸 個展「FACE」

 

 

会 期:2022年2月11日(金) - 2022年3月27日(日)

時 間:8時-23時

休 廊:会期中無休

場 所:GALLERY ROOM・A

展覧会URL:

https://www.thesharehotels.com/kaika/events/1525/

 


 

描かれているのは顔ですが、ペインティングナイフのみで描いたのではないかというくらいエッジが立ったデフォルメが印象的。

 

梅原義幸さんは1997年生まれ。多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業。2021年、ARTDYNEにて開催のグループ展「Winter Group Show -Air-」にてデビューしたばかりの注目のアーティストです。本展「FACE」が初個展となります。

 

会場のGALLERY ROOM・Aは、アートストレージとホテルが融合したオルタナティヴ・スペースとしても注目されているKAIKA 東京 by THE SHARE HOTELSさんの1階にあり、金網フェンスの囲いなど雰囲気のある空間です。

 

「FACE#18」

SNSで流れてくる画像では質感までは捉えきれなかったのですが、ケーキのクリームをへらで伸ばしたようなこってりとした表面でした。素材はキャンバスに油絵具

少し地塗りの山吹色が見える箇所もあります。この色もアクセントとして効いていて抜かりない。


「FACE#15」

大胆なデフォルメ。光が当たっている表現なのか顔の正面と首が明るい水色。首がついている位置など、子供が描く絵のようなズレも感じますが、意図的に子供っぽい絵を描いたような厭らしさはないです。なぜだろう、、、。強い目の表現が子供の絵との違いを明確にしているのでしょうか。


左より:「FACE#13」「FACE#10」「FACE#11」「FACE#12」

「FACE#13」

傷のような赤い線が気になりつつも、ここでも視線が絶妙です。傷つきながらチラと見る先には嫉妬の対象があったりするのか。

「FACE#13」(部分拡大)

単純に思える色面にも、表面に豊かな凹凸の表情が見られます。


「FACE#10」

傷だらけですね。瞳の強さがあります。意志のようなものも感じます。

「FACE#10」(部分拡大)

こってりと、傷の深さも表されています。


「FACE#11」

傷はないけども。

「FACE#11」(部分拡大)

自信に満ちた顔にも、静かに怒っているような顔にも、全くの無感情にも見えます。


「FACE#12」

白い傷。汗と涙か。画面下に真横に伸びた肌色が気になります。腕を伸ばしている?

「FACE#12」(部分拡大)

目と口とわかるけど、これは曲線です。顔と思ってしまうこちらがおかしいのか。悔しさや辛さという感情すら連想してしまう。


 

梅原さんが本展に寄せているコメントには

 

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「物と魂と私の存在」

ふと風景や物、雨や風などの現象を見た時、私はたびたび顔を思い浮かべることがあります。

 

その顔は (中略) 物の存在と私という存在の間、接触点に存在するものです。

 

私のFACEシリーズはこのぼんやりと感じ取った顔を記録として描き出すことから始まりました。そして出来上がったそれらの絵を見た時、それが自分の顔のように感じられました。私が見えていた顔も、そして描き出された顔も「私」とは違う他者のような風貌なのにです。

 

 (中略)

描き出す過程で「私から外れている者」として出会った顔が「私」に統合されていく感覚。その過程に私とは一体どこにいるのか、自我の存在する位置に不安定さを感じました。

 (中略)

 

物に見つめられる感覚、物や空間から気配を感じ取ること、そしてそれらに触発され私が私に見せられている顔。

それは一体何故なのか。物と私に宿る魂のありかについて私は考えます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

とあり、顔を描く過程で、梅原さんは「私から外れている者」が「私」に「統合」されていく感覚を覚えた、と言っています。「瞑想」や「宇宙」、「量子力学」を思わせるような深い話のように感じました。

 

梅原さんが作品制作時に感じた感覚とまではいかなくても、作品を観て、それが顔であると分かったり、感情を感じ取ったりできるのは、何らかの「魂と呼べるようなもの」を作品の中に見出すからではないでしょうか。

 

子供の描く絵のように単純に見えても「何かある」と思わせる魅力は、その魂の部分にあると考えられそうです。

 

左:「FACE#16」 右:「FACE#17」

「FACE#16」「FACE#17」は画面がより大きく、デフォルメも進んで顎の輪郭線も消えていますが、顔です。顔に見えます。そして傷と思っていた赤い線は、歌舞伎の隈取りや、戦いや魔除けのために施す部族の化粧のような意志のある強い線に見えました。

 

「FACE#16」

「FACE#17」


 

魂を感じさせる画面は、梅原さんのペインティングの技巧のなせる業なのでしょうか。会場には、ペインティングではなく紙で作られた作品もありました。

 

左:「FACE/paper#01」 右:「FACE/paper#02

「FACE/paper#01」(部分拡大)

FACE/paper#02


梅原さんの作り出す形と線と、表面に傷や膨らみのような起伏があれば、同じような感覚が生まれるのか。梅原さんが風景や物、雨や風などの現象に感じる「顔」とは一体どんなものなのか。今観ているこれらの顔がそうだ、ということなのですが、観ているし、顔だと思っているのに「これは何だ」と問いたくなる、すごく不思議な感覚です。

 

人間の表情というのは面白いもので、育った文化が違っても、幸福・軽蔑・嫌悪・怒り・悲しみ・驚き・恐怖の7つの表情は共通なんだそうです。それはマスメディアの影響のない土地に住む人でも共通であることが実験によって証明されています (『裏切り者は顔に出る』清水健二 中央公論新社) 。

 

よく「目が笑っていない」など、偽の笑顔を見抜く時に言いますが、仮に自分で嘘と分からないくらいに目まで笑った笑顔を作ってみると、何となく肋骨が開いて心臓のあたりが軽くなり、呼吸もスムーズでリラックスした状態になります。心が先で表情が後についてくるものですが、この関係性は実は双方向的で、顔の表情から心をコントロールすることも可能かもしれません。顔にはそれだけの力があります。侮れない。

 

本展「FACE」は、「顔」という極めて身近なテーマを扱いながら、未だ解明されていない何かに感覚的に気づく機会を与えてくれるような展覧会でした。これは一体なんなのか。ぜひ実物を観て体感してみてください。


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