谷村メイチンロマーナ 個展
「Romana Toy Store」
会 期:2022年3月19日(土) - 2022年4月3日(日)
時 間:木金 15時-19時 土日 12時-19時
休 廊:月火水
場 所:myheirloom
展覧会URL:
ピンク色の照明。それだけでも興味が湧きましたが、そのインパクトを上回る作品。なんだこれは、、、?
谷村メイチンロマーナさんは1998年生まれ、東北芸術工科大学院芸術文化専攻複合領域在学中 (2022年3月現在) 。BSフジ『ブレイク前夜 ~次世代の芸術家たち~』#309 のインタビューでは、中野ブロードウェイでソフビに出会い「かっこいいじゃん」と惹かれ、おもちゃの持つポジティブな力:世代を超えて家族等で楽しめたりするキャッチーさ、を作品に取り入れても良いのではないかとソフビ作品を制作し始めたこと、日本特有の文化であるソフビやブリキのおもちゃはアートとして受け入れられていない現状、それを打破したい思い、作品を好きか嫌いかで判断してほしい、ということなどが語られていました。
好きか嫌いかですか? 好きです、大好き。
「サイコーの相棒!「イヌー・ラ・ワン」(Gray ver.)」
「牛型飛行生命物体「モー・カウカウ」3D ver.」
おもちゃのパッケージに入っているので画像では伝わりづらいですが、なかなか大きな3作品。横の幅が60cmくらいあります。この袋の感じの再現性の高さ。こだわりを感じます。
「おかん系ダイナソー「アルム」」
「リングの盛り上げ役「ファイター・マスカゲ」」
「アイスの怪物「アイス・マン」(Gray ver.)」
見た目のインパクトと背景のストーリーを感じさせる二つ名。かつておかん系ダイナソーというものが存在しただろうか? いや、ない。髪型がおかん系? 飴ちゃんくれそう。
作品が巨大パッケージに入っているのも、おもちゃの感じがよく表れていてコンセプトがハッキリしています。素材は発泡ウレタン、針金、麻紐、アクリル。発泡ウレタンとは、スプレー缶の中に入ったウレタンをストロー状のノズルから泡のムースのように出して使用するDIY系の商品です。ウレタンはスポンジのように内部に空気を含むので断熱材などにもよく使用されています。出した直後はノズルによる凹凸がある固そうな泡なのですが、時間が経つと1.5倍〜2倍に膨らみ、滑らかな表面になって固まるそうです。
テンション高そうな見た目は内側から膨らんだウレタンの勢いに一因があるのかも。
左:「食べすぎエイリアン「マツコ」(3D ver.)」 右:「食べすぎエイリアン「マツコ」」
「食べすぎエイリアン「マツコ」(3D ver.)」
言うほど食べすぎに見えないけど、、、
別角度より撮影。
ポテチ食べているのか。
部分拡大。
立体の素材はグルースティック。スティック状の樹脂をグルーガンというピストルのようなものに詰め、熱で溶けた樹脂を銃口から出して成型するというものです。こちらの大きさは35×20×32cm。グルーガンの銃口は一般的に7mmと11mmがあるようですが、毛糸玉のような表面の凸凹を見るに、ここまでの大きさの立体を作るにはなかなかの手間と技術が詰まっていると思います。
展覧会タイトル「Romana Toy Store」のネオン。
「食べすぎエイリアン「マツコ」」
発泡ウレタンの方はアイシングクッキーの感じがあって、ちょっと美味しそう。「食べすぎ」なだけあって大きめ。155×95×20 cm (パッケージ含む)。
部分拡大。
唇の表現と発泡ウレタンがすごい合っている。
上:「牛型飛行生命物体「モー・カウカウ」」
下:「牛型飛行生命物体「モー・カウカウ」(Silver ver.)(3D Ver.)」
私が鑑賞した際には「牛型飛行生命物体「モー・カウカウ」」はもう・買われていた 。
上:「ガッテン承知でぇい!「マサノスケ」(Gray ver.)」
中:「ガッテン承知でぇい!「マサノスケ」(3D ver.)」
下:「ガッテン承知でぇい!「マサノスケ」(Silver ver.)(3D ver.)」
「ひょっこり・シーサー「ヤーヤー・ブー」」
爆ぜそう。そこがいい。
「ひょっこり・シーサー「ヤーヤー・ブー」(Gray ver.)(3D ver.)」
Gray ver. はモノトーンのインテリアなどに合わせてめっちゃかっこよく飾れそうです。
あえての和室、床の間とかもいいかも。
「首長虎龍「ビクター・マロ」」
191cm×110×20 cm (パッケージ含む)。大きい。ど迫力。
「ROMANA TOY ART GACHA (Big ver.)」
人気。売り切れ続出。
画像は撮影時に販売されていた作品ですので、すでにSOLD OUTの可能性があります。
「ROMANA TOY ART GACHA」はSmall ver.もあります。希望者は代金を支払い専用メダルに交換後、会場内のカプセルトイの機械で購入できる仕組みになっています。
ここまでご紹介してきてお分かりかもしれませんが、一見、大量生産可能そうなおもちゃの姿、パッケージを含めた見せ方をしていながら、エディション数はunique、つまり一点ものの作品です。「GACHA (ガチャ)」と銘打たれた作品もunique表記、一点ものでした。
前述のBSフジ『ブレイク前夜 ~次世代の芸術家たち~』#309 インタビュー内で語られた、日本特有のソフビ文化がアートとして受け入れられる環境を理想としている、というコンセプトがここでも表れています。
ここで現代アートにおける「ソフビ」の特殊な位置付けについて補足しておきたいです。現代アートの場では、時にソフビと呼ばれたりするアートのエディション作品があります。エディションとは元々版画作品に用いられていた語。現代アートでエディション作品というと、複製で制作される数量限定の作品を指し、小さめの立体やフィギュアのような形態も多いです。実際の素材はソフト塩化ビニルでなくてもソフビと呼ばれる場合もあります。
エディション作品は版画技術や型などを使用することで大量生産が可能なため、一点ものの作品よりも安く販売できることを利点とした面があります。より多くの人に求めやすい価格でアートを楽しんでもらえるため、アートの敷居を下げる目的もあります。しかし、そのような経緯で生まれたソフビ、フィギュア、エディション作品は、一点もののアート作品の下位互換の位置付け、という印象を拭えませんし、ややもすれば、売上目的の大量生産という印象を持たれる可能性もあるような気がします。
谷村さんの意味する「ソフビ」とは現代に作られたそれらとは違い、中野ブロードウェイで見られるような、以前に作られた特撮系の怪獣やヒーロー、ドールハウス等の人形であると推測できます。これらもコレクターの中では高値がついたりしています。日本特有の文化として、これらのソフビをアートとしても良いのではないかという意見をお持ちです。
谷村さんの作品は、おもちゃはおもちゃ、アートはアートという区別を曖昧にすることに挑んでいます。下位互換で親しみを持たせるのではなく、おもちゃの文化を尊重し、見た目のキャッチーさで敷居を下げようとしています。「ソフビ」を通じて、アートの敷居を低くしようという同じ目的を持つにもかかわらず、前述のエディション作品とは真逆の、uniqueということに潔さを感じました。私見ですが、エディション作品の方の「ソフビ」に対する批判の意味も作品にはあるのではないでしょうか。複数生産であるにもかかわらずアクリルケースに入れられる (ことが多い) エディション作品と、一点ものであるにもかかわらずおもちゃの気軽さで展示される谷村さんの作品の対比です。
見た目のキャッチーさが肝になるため、パッケージを含めた作品は大きく、とてもインパクトがあります。額装せず、台紙の丸い穴をビスに引っ掛けてぶら下げただけの展示方法、カプセルトイでの販売、手書きのようなネオンサイン、ピンク色の照明、それら全てがこの、見た目のキャッチーさに繋がり、谷村さんのコンセプトを表現しています。
「ひょっこり・シーサー「ヤーヤー・ブー」(3D ver.)」
会場の入り口にある作品。ピンクの照明下でみる印象とはまた違います。
展示を観ると色々なことを考えてしまいますし、文章にするとどこか難しく考えているように伝わるかもしれませんが、「何これ!かわいい!めっちゃ元気になる!」というのが一番の感想です。見た目の魅力に溢れているインスタレーション作品でもあります。ぜひ、この空間を訪れてみてください。
展示風景画像:谷村メイチンロマーナ 個展 「Romana Toy Store」
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