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感想 久保田智広 個展「eat ro ekyu」

久保田智広 個展「eat ro ekyu」

キュレーター : 岩田智哉

デザイン : 五十嵐央

協賛 : エブリチャンス合同会社、株式会社BIZRES

 

会 期:2022年4月15日(金) - 2022年5月1日(日)

時 間:12時-19時

休 廊:月

場 所:EUKARYOTE

展覧会URL:

https://eukaryote.jp/exhibition/tomohiro_kubota_solo_ex/

 


 

展覧会タイトルの「eat ro ekyu」。聞き慣れない言葉ですが、これは会場である「EUKARYOTE」のアナグラムになっています。おお、暗号みたい。eatで始まっているので、ekyuというバキューム系の謎の怪物に建物ごと喰われて吐き出されたみたいな印象があります。この場合roは架空の言語の前置詞です。byみたいな。

 

EUKARYOTEさんに行ったことがある方は、本展の、いつもと違う様子をより楽しめると思います。というのも、ekyuに飲み込まれて吐き出された内部は、いつもは部外者が入れなかったり見れなかったりした部分が見えたり、ここにこれが置いてあって不便じゃないのか? というような思い切った配置になっていたり、工事中の建物内に入ってしまった感があったりと、会場自体がアナグラムのような展覧会になっているからです。

 

 

外からはいつも通りに見えますが、、、

 

入ってすぐの傘立て。ゴミ箱?ピッタリと折り畳み傘がはまっていてこれ以上傘もゴミも入れられない佇まいです。


 

会場の図。1- 3階までが展示とのことですが、3階は完全オフィスになっててビビって撮影しませんでした (小心者です) 。

 

ぽつんと冷蔵庫。オフィスから取りに来るには不便そう、、、。


 

いつもこのオシャレな小窓からスタッフさんが声かけしてくださるけど、、、手前の斜めに建っている金属の建材は普段はなかったはず、、、? (正解は関連記事のEUKARYOTEさんの他展示を見てね)

 

中もっと広いと思っていた、、、。差し込む光がかっこよくて驚く。


 

スタッフさんの目線になってみる。

 

これ、なんぞ?


 

水回り発見。

 

これは、便器を外した跡、、、?


 

2階。

 

ゴミ箱があんなになっちゃったから壁の裏にペットボトル置く羽目に、、、。そしてオフィスから遠いところのファイルたち。

 

監視モニタが映すのは倉庫 (来場者監視しなくて大丈夫なの?汗)


 

緩衝材の役割を果たしてない、、、

 

塗装された白壁側に取り付けられた金具。物を置くわけでもなく、通行もできず、何のための空間だろう?


 

応接用の椅子、、、かな。

 

応接椅子のすぐ隣に掃除用具。丸見え。オシャレなコの字棚にはやはりペットボトル (飲み終わり) が。


 

面白いのは「これ、ダメでしょー」って思えることで、改めて最適な場所をイメージできることです。この展示終わった後のEUKARYOTEさんのバックヤードを見てみたい気もします。すごく効率化してるのではないでしょうか。

 

 

久保田智広さんは1992年生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業後、ウィーン応用芸術大学交換留学、東京藝術大学美術研究科修士課程版画専攻を修了。本展が初の個展とのことですが、インスタレーションやパフォーマンスなどの表現を用いながら、物事の価値基準や選別基準をテーマにした制作、展示を行っています。

 

EUKARYOTEさんの展覧会Informationによると、久保田さんの実践と言える作品には「自らをとりまく環境の改善を目指す「対症療法的 (病気の原因に対してではなく、その時の症状を軽減するために行われる治療法。ーgoo辞書より)」な態度が通底して(EUKARYOTE 久保田智広 個展「eat ro ekyu」Informationより抜粋)」いるとされています。芸術家、作家、何かを生み出す人というのは、別の異次元からひょっこり現れて異なる世界を見せてくれるわけではなくて、普段私たちが暮らしている延長上で起きた事象に対しての考えであったり、日常的なコミュニケーションから発生するものを見せてくれているわけです。創作活動は、社会的な問題というように主語が大きくなるものから、個人やコミュニティに対する限定的なものまで範囲は様々ですが、「相手」との「コミュニケーション」の手段の一つであることに変わりはなく、その性質が久保田さんの場合「対症療法的」であるということでしょう。

 

Artstickerさんで無料公開されている音声ガイドによると、久保田さんは作品制作において「作りすぎない」こと、「作ることによる負債」という考えが念頭にあるとおっしゃっています。

 

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東京の狭い土地の中で何かを生み出すっていうことが、富を作り出すっていうことである一方で、負債や負担を作り出すっていうそういった側面を持っている。

(声で楽しむ EUKARYOTE/久保田智広「eat ro ekyu」 ArtSticker Promenade より抜粋)

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現在の資本主義社会の大量生産・環境問題が取り沙汰されている中で、作ること自体、それを扱うこと自体っていうのを改めて考えることっていうのは有用であるっていうふうに考えていて。

(中略)

作品をシンボライズしないで実際的なプロセスだったりとか、作られ方・ありようっていうこと自体で示せるといいのかなっていう風には思っています。

(声で楽しむ EUKARYOTE/久保田智広「eat ro ekyu」 ArtSticker Promenade より抜粋)

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これについては、けっこうドキッとさせられ、自らを省みるような気持ちになりました。確かに今の自分の生活って物が多過ぎるんですよ。その全ての物が本当に必要な物なのか、と言われると、、、辛い。そしてそれは個人レベルの問題でありながら、ゴミを多く出してしまうというように、環境問題といった社会レベルで見てもあまり好ましくない状況と言えます。物が増えるのは好ましくない、そのことを「物を作り出すこと=制作」が主な活動と (私が) 捉えていた作家の側から突きつけられる驚き。久保田さんは「作らない」という方向で考えを示す手段を模索していると。

 

 

先ほどの創作活動=コミュニケーションの話から考えを進めると、作家が私たちに見せてくれるのは「考え方」「物事の違った側面」「問題点」ということです。物を作り出さずとも、示せる方法があればよいわけで。

 

今回の展示は物を作らない「作品」であって、展示されているEUKARYOTEさんの備品が購入できるわけではないですが、本展開催にあたっての作家の考え、当初の案、準備、予算の捻出、最終的には会期終了後の原状復帰に至るまでを日記形式にしたテキストがタイムエディション方式 (実際に申し込みがあった総数がエディションの母数になる) で販売されています※。

2022年6月1日まで《ArtSticker 限定販売》「eat ro ekyuに関する備忘録」にて販売。

 

 

 

個人レベルから環境レベルに至る、物を増やすということの問題について、また、アートを売る現場:ギャラリーの裏側を見せる試みであったり、原状復帰の後にはコンセントの位置が変わるかもしれないという、具体的な改善までも包括した展示でした。ここまで物が増えた社会を根本から覆すことは難しく、対症療法的にでも、個ができることからやっていかないと。

 

 

見ようと思えば見えたはずの問題。その存在を明らかにすることが作家、ということなのか。とても考えさせられます。

 

ぜひ、訪れてみてください。

 

 

展示風景画像:久保田智広 個展「eat ro ekyu」


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