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感想 前川侑子 個展「いつもひとりは化け物」

 

前川侑子 個展「いつもひとりは化け物」

 

会 期:2022年4月25日(月) - 2022年5月11日(水)

時 間:11時-18時

休 廊:会期中無休

場 所:Liamgallery

展覧会URL:

http://liamgallery.com/exhibition.html#bakemonoten


 

前川侑子さんは1993年生まれ、京都市立芸術大学大学院染織専攻卒業後、グラフィックデザイナーを経て、2021年からフリーのイラストレーターとして活動されています。

 

本展タイトル「いつもひとりは化け物」からも感じられるように「孤独」を掘り下げた作品が並びます。

 

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孤独はいつも未知で私のありようによって変化する

上手く手懐ければこんなにステキな友達は他にいない

 

(Liamgallery 前川侑子 個展「いつもひとりは化け物」展⽰会の内容より)

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写真画像からは伝わりづらいですが、蛍光色なども使用されていて色鮮やか、とても目を引く作品群でした。


 

「死なないでねこ」

猫、死んでしまったのか、、、?

分離するような、または鏡面のように対称的な構図が内面や精神を表しているようで不思議な感覚を呼ぶ作品です。

 

 

「イブとイブの逃走」

この作品は外からしか観られないようになっているので、見逃し注意です。


 

「ひとり」「孤独」がテーマと思って鑑賞したのですが、他者の視線や存在を画面から感じる、、、。

 

「I should tell you」

 

「I should tell you」(部分拡大)


 

「二人になる」

 

「二人になる」(部分拡大)


 

自分の中にある女性性を別人格として認識しているのかなぁ、、、? 興味深い。

 

「イブとイブ」

 

「flip out」


 

「中を見つめる」

一つの顔に浮かぶ二面性。

 

「泣かないでおんなのこ」

他者に向かって言っているようで、自分に言っている言葉のよう。


 

 

会場では前川さんの画集も販売されており、掲載の原画も販売されていました。

 

画集「PRINTEMPS」

 

原画をたくさん観られるのってすごい!


 

会場にはグッズも豊富にあり、トートバッグにプリントされている作品の原画もあります。


 

画集は「春」をキーワードに様々な作品が並びます。春と言ってボーダーが出てきた、というようなことが書かれており、なんとなく共感しました。私の場合はファッションで春と言えばボーダー、という連想からなのですが、それって日本独特の刷り込みだろうか、、、。ファッション雑誌などで春号になるとけっこうな割合でボーダーの服のコーディネイトが掲載されている気がする。

 

ボーダー服ってフランスの漁師が来ていたバスクシャツが起源ですよね。 さらに遡ると、西洋ではボーダー服を犯罪者や異端者に着せていたそうです (参考 : ホームメイト・リサーチ「素材を知る[柄編] ボーダー」フランスのマリンルックが起源 より) 。そう言えば、昔アニメで観た囚人って全身ボーダーの服を着てました。横縞 (よこしま) は悪魔の柄と見做されていたそうで、、、って、邪 (よこしま) という日本語と偶然の一致なのか?

 

日本語の「よこしま」は、「横しま」からきており、「逆しま (さかしま) 」が逆さの方向を示すように「横しま」は横の方向を指し、心などが前を向いておらず横を向いている、正しくない方向を向いている、という意味から来たらしいです (参考:語源由来辞典「邪/よこしま」より)。西欧の「横向きの縞模様が悪魔の柄」というのと意味が通じるようで不思議ですね。

 

 

脱線の度合いが甚だしくなったので展示作品の話に戻しますが、本展では、2人の女性が向き合っておらず横を向いている「イブとイブの逃走」シリーズが個人的にとても気になりました。他者に連れられて行く自分、あるいは自分が連れて行く他者。個人の中での自分と自分と読むなら、行く先はどこなのだろう? 自分と向き合うという表現はよくあるけど、顔の向きのその先、自分も知らない先に連れて行く自分。見ている先には何があるのでしょうか。

 

「イブとイブの逃走」

 

「イブとイブの逃走」


 

「イブとイブの逃走」

 

「イブとイブ」


 

本展には「イブとイブの逃走」というタイトルの作品が、前述の、会場の外からしか鑑賞できない作品も合わせて4作品、「イブとイブ」というタイトルの作品が2作品、展示されています。互いに向き合っていないけれど手を取っているのが「イブとイブの逃走」、向き合っておらず手も取り合っていないように見えるのが「イブとイブ」。これは何か特別な意味がありそう。

 

けっこうスピリチュアルな感じ方になりますが、「イブとイブの逃走」シリーズを、自分自身が別個体の自分と共に新境地に向かう図と受け取るならば、瞑想などで自身の奥に入り込み、先に進めない原因となっていた心理的障害を、当時の自分と共に乗り越えるような場面を思い浮かべました。幼少期に刷り込まれた思い込みがあるならば、それを幼少の自分と共に乗り越える、みたいなイメージです。自身の心の中の葛藤や苦悩から、何とか折り合いをつけようという思い、新しい見方や感じ方ができる場所へと向かおうというような思いが感じ取れます。

 

「涅槃図 (まだ終わらない)」

タイトルの「(まだ終わらない)」 という部分に苦悩を感じます。涅槃 (ねはん) とは釈迦の入滅、煩悩などから解放された悟りの状態です。この作品で登場しているのは全員女性のような気がする。もっと言うと、全員同じ人。個人の心の中で、苦悩の原因から解放されるべく、涅槃の図に達するもまだ終わらない。

 

展示タイトルの「いつもひとりは化け物」の「化け物」という部分には、常に孤独でいると精神状態が異常になる、または、異常であると見られてしまう、というような意味も感じました。孤独でいることとの折り合いの付け方、また、他者との関係で生じる葛藤との折り合いの付け方は、終わりのないテーマです。生きているってことはそういうことと無縁ではいられないし、極論、人は皆「ひとり」というのが私の意見です。「ひとり = 化け物  = 邪」という点で、皆「同じ」です。

 

ちょっと強引に「横しま」の脱線に繋げてしまいましたが、展示全体はとても鮮やかで受け入れやすい表現であり、心の葛藤や生きることの普遍のテーマに対し、横ではなく前を向いていると感じられました。画集のタイトルも「PRINTEMPS」 = 春であり、クラウドファンディングのサイトによると「幸福な日々の気づき」が描かれているとのことなので、葛藤がありながらも生きることへの前向きさに繋がっています。

 

 

叙情的な作品群でした。ぜひ、足を運んでみてください。

 

 

 

展示風景画像:前川侑子 個展「いつもひとりは化け物」


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