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感想 HIROKAZU HORI solo exhibition “SHO!O!O!P”

 

HIROKAZU HORI solo exhibition

“SHO!O!O!P”

 

会 期:2022年6月18日(土) - 2022年7月3日(日)

時 間:13時-20時

休 廊:月

場 所:mograg gallery

展覧会URL:

https://www.instagram.com/p/CexnK4pvL-2/


 

ホリヒロカズさんは1983年生まれ、京都造形芸術大学卒業。2005年よりアパレル展開をベースとして活動されています。本展 "SHO!O!O!P" では、「健康(ヘルシー)」、「SAU(左右)」(※さう と読む)、「To/By/For」(※ツーバイフォー と読む) の3レーベルが展示されています。おお? レーベル? レコード会社の部門的な響きにすでに興味を引かれていますが、どういう部門分けなんだろう? ということで、会場に掲示されていた各レーベルの説明を以下に引用させていただきます。

 

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「健康(ヘルシー)」:リラックスと心の健康がコンセプト。基本的には「健康」にまつわるモチーフを使用し、ゆるい図案が多いレーベル。

IG : @vinylhealthy

 

「SAU(左右)」:すべての図案にバックストーリーがあり、下げ札にキャプションがついている。日々の発見や、酔っぱらいの戯言までなんでも図案にする。

IG : @sau_hidarimigi

 

「To/By/For」:一番新しいレーベル。未完のアイデアがコンセプト、実験的な方法でアートワークを制作し、それを再サンプリングしてアイテム展開する。

なんとなく言葉に出来ないようなニュアンスとアートワークとアイテムの間でリリースしたいと思っています。

IG : @tobyfor2021

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レーベルとは「レコードの中央部に曲名・演奏者などを記してはる円形の紙。転じて、レコードの制作・販売にあたる会社やブランド名。(コトバンク デジタル大辞泉の解説)」と解説されるように、元はレコードの中央部に貼られた、ビジュアル的にも重要な部分の円形ラベルを指しました。ホリさんのレーベルデザインにもこだわりを感じます。これだけでもカッコいい。

 


 

「健康(ヘルシー)」「SAU(左右)」はTシャツという支持体に洗練されたデザインがミシン刺繍されています。大きいデザインになるとミシンといえども6時間くらいかかるそうです。Tシャツの地の色に合わせて糸の色も変更されているので、同じ図案は存在しても絶妙な色の組み合わせは1点ずつしかありません。ビビっとくる運命の出会いを果たした場合は即ゲット推奨です。

 

 

まず「健康(ヘルシー)」レーベルから一部をご紹介。展示されているTシャツはほぼすべてビビっときたんですが、売れちゃうものもあるので紹介数を絞っております。何に出会えるかは来廊してのお楽しみ。

「健康(ヘルシー)」のインスタグラムをみるとこちらの色違いを某芸能人の方も着ている! シンプルですが、「健康」の文字の力をストレートに感じる作品。

 

丸みを帯びた字体とフルーツの図が80年代っぽさを感じさせます。カワイイ。フルーツ食べなきゃ。

 


歯ぁ磨けよ (by 加藤茶 quoted from「いい湯だな/ドリフのビバノン音頭」)。歯ってめちゃくちゃ大事らしいですね。メタボリックシンドロームや糖尿病にも関わるらしいですし、噛み合わせが狂ったりすると骨組みのバランスや運動能力にも関わってきますし。

 

「ナ○キ」感がややある「空気」笑。いい空気も健康に欠かせません。呼吸、浅くなってませんか? 輪郭だけの刺繍デザインも空気の感じが伝わってきます (白地に白刺繍もありました) 。

 


 

次にご紹介するのは「SAU(左右)」レーベルです。こちらもご紹介するのはほんの一部。会場にはもっと多くの作品があります。各図案のバックストーリーがエッセイのようで読み応えがあり、「面白い」だけじゃなくちょっと「考えさせられる」ものもあったり。ホリさんは文才もある。文も味わっていただきたく画像を載せますが、固有名詞は念の為伏せました。

 

「IYASHI」


「IMAGINARY SHOP」


「ピンクファイアー」

「REGRET」の刺繍の意味が明らかに!


「アフガンハウンドを図案にする」

こちらの図案、色違いパーカーをあいみょんさんが着ていました (Twitter調べ)。

置物の写真が確認できるリンク先はこちら→Twitter


「平和を図案にする」


 

Tシャツについて。ホリさんの作品ではない例で申し訳ないですが、セレクトショップで売られていたTシャツの中に、コロナ禍のDistacingをもじったものを見た際、世相を反映したり、見た目のデザインも重要である点なども合わせて、Tシャツはアートの支持体になり得ると感じました。着れるアート。友人に会う時に自分の好きな作家の主張ができる! (笑)。美術館のグッズコーナーには作品をプリントしたアパレルが以前からありますが、Tシャツでなければ表現できないものという意味では、ホリさんの作品の方が説得力がある。「健康(ヘルシー)」レーベルは着る体があってこそですし、「SAU(左右)」レーベルも「それは?」とつい訊いてしまう見た目の魅力があり、語れるエピソードがあり、シルクスクリーンプリントではない、刺繍の厚みの力があります。元のバックストーリーも居酒屋で聞いた話などが元になっていて、うっかり心を開いた場面での話から生まれ、それがTシャツを介して新たなコミュニケーションに繋がっていく。そういう使い方は部屋に飾る仕様の作品ではなかなか難しいことだよなぁと思います。

 

また、作品がTシャツであることの大きな理由がありました。mograg galleryさんが展覧会開催中の作家を招いてインタビューするmogragRADIO vol.426にホリさんが出演されていて、ご実家が服屋さんであること、ミシンや生地などは元から揃っていて馴染みのある機材、素材であったことなどをお話しされています。

 

Youtube リンク

mogragRADIO vol.426 アーティストインタビュー:ホリヒロカズ

 

服を制作できる環境で育ったホリさんですが、グラフィックにも興味があったことから、雑誌に携わることを考え、編集長も経験されたそうです (このエピソードも面白かったのでぜひmogragRADIOをチェックしてみてください)。しかし、ある時、ファッションに使用されるグラフィック (例えばTシャツの図柄など) はクライアントワークとは違い、自身でGOサインが出せることに気付きます。このように、自身の表現のための支持体として、生地、Tシャツというものが自然に選ばれていきました。ホリさんはTabinary(タビナリー)というレーベルでTシャツ以外のプロダクトも製作されていて、海外からの問い合わせも多いそうです (2022年6月現在はお休み中)。

 

 

展覧会のリリースに書かれたホリさんの紹介文には

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3つのLABEL、1人のVERSE

日常に転がっている創造の原石を、服飾とアートに精製する錬金術師

(mograg gallery インスタグラム より)

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とあり、錬金術師という言葉が言い得て妙と感じました。錬金術は「卑金属を人工的手段により貴金属に転換する術のこと。(コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説 より)」ですが、その目的のために必然的に物質の性質を重要視していく傾向がある思想でありました。ホリさんの作品の図柄がシルクスクリーンプリントでなく刺繍で表現されていること、布と糸という物質であることがとても重要な要素であると私は思います。しなやかで、シルクスクリーンプリントのようにひび割れしない。そして何と言っても物質の存在感がある。刺繍は視覚的刺激はマイルドですがしっかりと糸の厚みを感じられます。その、しなやかさや、表面的にはマイルドでありながら厚みがあることなどは、人と人のコミュニケーションの理想的な態度に思えて、心の健康も含んでいる「健康(ヘルシー)」レーベルやコミュニケーションから生まれコミュニケーションを生み出す「SAU(左右)」レーベルのコンセプトに沿った素材であると感じました。

 

 

 

最後に、本展で一番新しいレーベルである「To/By/For」のご紹介です。音楽からの影響もあって、様々な別レーベルを持ち活動することに抵抗がないホリさん。しかし別レーベルを立ち上げるには、その意味、コンセプトを忘れずに制作することの重要性も感じていらっしゃいます。「To/By/For」の文字が目的語がない前置詞のみで構成されているように、明確な最終形態をイメージして作るのではなく、制作の合間に生まれてくる断片的なアイデアを元に、言語化出来なくても何となく惹かれたものを制作されています。DIYをされる人の中には、メジャーな木材の規格 2×4 (ツーバイフォー)を連想される方もいるかもしれません。ものづくり感がダイレクトに伝わってくるネーミング。

 

「To/By/For」のインスタグラムを拝見すると、制御が効かないアナログ機材を使用してグラフィックを制作する、ということがなされており、音を線にして縫う試み『スクラッチで線を引く』や、ヴィンテージのビデオ機材からベンジャミンフランクリンのグラフィックを作るビデオアートから刺繍の展開、等々、興味深い実験をとても楽しそうに行っているのが感じ取れます。「To/By/For」のロゴもこういった一連の実験から生まれたのかも、と想像してしまう。

 

デジタル感があるけれどもマイルド。


映像作品。Tシャツの図柄にあったかも?

 

これは! 何だろう、、、すごい魅力があるけど、その理由の言語化が難しい! コンセプトの通り!

 

上左:「ボームム」 上右:「ガシガシ」

下左:「テン」 下右:「あれれ」

1人前。

 

上左:「しんしん」 上右:「キラキキ」

下左:「おっぱ」 下右:「ドミー」

今売れてます!


 

これは私の穿った見方ですが、スーパーマーケットの精肉コーナーを思わせるシールの文言が、現代アート作品の売り文句とさして変わらないという皮肉がきいている気がする (肉だけに) 。物を売る側、買う側の心理は変わらないんだなぁ。

 

「たれたら」

 

「たれたら」(部分拡大)

柄の部分も刺繍です。


 

 

レコードジャケットにシルクスクリーンプリントを施したシリーズも。

 

「on LP」

少し光沢のある元のジャケット部分とマットな質感のシルクスクリーン部分の対比がいい。

 

「on LP

インクの厚みを繊細に感じ取れる作り方をされているように思います。


 

 

こちらの作品群はアナログのハードウェアで音を表現しているのかしら? 音を感じる。

 

「composite shape」

 

「composite shape」


 

 

こちらは方眼紙にアートワークが。

 

「ink」

レコードジャケットの作品「on LP」にも出てきたチェーンのモチーフ。刺繍の技法、チェーンステッチと関係がある?

 

「ink」

この質感の見せ方、いいなぁ。


 

この「To/By/For」レーベルもとてもカッコいいし完成度は高いと思ったのですが、ホリさんご本人は前述のmogragRADIO内で「きちっとまだ落とし込めてない感はある」とおっしゃっていました。このようなアートピースを作る工程は最終的にはプロダクト製作に届くために作っているというところがあるそうです。アート作品、アートワークが過程として存在する、ということに驚きました。もちろん、アートワーク単体でも完成させているところはある、とのことですが、最終的にプロダクトにするには何かもう1つは加わる工程が必要と感じているそうです。「他者の作品」からインスピレーションを受けて作品が出来上がる、ということはよくあるとして、その「他者の作品」部分をセルフでやっているのが「To/By/For」。ホリさんの中では、結果を予期して制作を行うとデザインの領域に近くなる感じがあり、そういう予期したものから外れたものを作ることによって自分を刺激してる、自分に見せる、という意味もあるんだそうです。

 

一連の作品とmogragRADIOさんのインタビューを追ってきて、自分が持っていた価値観として「アート作品>プロダクト」というような序列があったことを反省しています。プロダクトというのはより万人に分かりやすく伝わりやすくするために、削ぎ落とされた、色々な工程を経た結果でもあって、アート作品というのはハイコンテクストさを重要視するあまり1つの工程に過ぎない部分で止まっているだけのものも、実は世の中にたくさんあるのかもしれない。どちらが上か下か、という話ではないですが、なぜその「(ひょっとしたらまだ)工程の部分」で完成として見せるのか、という意味や必然性を鑑賞時に考えてみる、その視点も必要だなと感じました。

 

 

 

色々深くも掘れる展覧会ですが、魅力に溢れる図柄を観に、お気に入りのTシャツとの出会いを求めてサクッと行くのがおすすめです。「SAU(左右)」レーベルを選ぶ時には2種類の人がいるそうで、図柄を見て直感で選ぶ人、バックストーリーを読んでから選ぶ人、がいるそう。「見た目」から選ぶコンセプトの本サイトを運営している私は、なんとバックストーリーをじっくり読む派、でした。ぜひ、足を運んでみてください。

 

 

 

展示風景画像:HIROKAZU HORI solo exhibition “SHO!O!O!P”


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