友沢こたお 個展「Monochrome」
会 期:2022年7月3日(日) - 2022年7月26日(火)
時 間:11時-19時 (最終日17時終了)
休 廊:月
場 所:FOAM CONTEMPORARY
主 催:銀座 蔦屋書店
協 力:秋華洞
展覧会URL:
https://store.tsite.jp/ginza/event/art/27001-1021490603.html
友沢こたおさんは1999年生まれ、東京藝術大学大学院美術研究科油画修士課程在籍中。私が初めてこたおさんの作品を拝見したのは、WAVE 2020 (3331 Arts Chiyoda, 2020年) で、でした。写真が発明されてから、ペインティングは写真で出せない表現を模索してきた近現代史がありますが、それでも改めて、こたおさんの作品の写実的な表現に圧倒されたのと、赤ちゃんの顔面いっぱいに塗られた赤いスライムというモチーフに、これは絵だ! という説得力を感じ、他のどの作品よりも強烈に記憶に残りました。正確には赤ちゃんではなく、赤ちゃんの人形が描かれていたのですが。それでも、窒息死させてしまいそうなドキドキ感がある禁断の組み合わせは初めての衝撃でした。
その時私が見た作品はこちら→友沢こたおさんのインスタグラム投稿
こたおさんはWow! Ho! TV (TOKYO MX 2021/5/11放送 #45 ニュージェネアート) の中で、何を描いても「ぬめぬめ」してしまうことがコンプレックスだったが、スライムを初めて描いた時にその「ぬめぬめ」と合致し、ありのままの自分が気持ちよくかっこよく出すことができたと答えています。スライムを描くと自分だけの神秘的な世界へ入っていく感じがあるそうです。
自分だけの神秘的な世界が気持ちよくかっこよく出せる。理想! それが出来たらテンションぶち上がるだろうな〜。描かれているものがスライムと赤ちゃん (人形) 、または、スライムとこたおさん自身、の、ぬめっとした不気味さがあるモチーフであるにも関わらず、怖さをあまり感じず、どこか楽しくなってしまったのは、こたおさんが楽しんで描いている様子が滲んでいたからでしょうか?
本展「Monochrome」では、いわゆるモノクロのように白〜黒の色味で描かれた作品が並びます。油絵具で色を作る時にも独特のこだわりがあるこたおさんの、新たな試みです。
白黒の世界だと、また随分印象が違う、、、。
こたおさんのインスタグラムを拝見するとフルカラーで透明なスライムが描かれた作品が以前にもあるのですが、白黒作品のほうがより透明感が強調されて感じられました。
透明感と言っても種類はあり、さわやかな清々しい水のような透明感ではなく、ちゃんと「ぬめぬめ」というナメクジ様のぬめりが感じられて、こたおさんが描くとどうしても表れてしまう「ぬめぬめ」というのは、ひょっとしたらご本人のフェティシズムなのかな? と予想します。このぬめりは生物が自ら分泌するもので、生きていることの象徴でもあります。
「slime CXXIV」
このスライムは、冷んやりしていて気持ちよさそう。
「slime CXXIV」(部分拡大)
ぬめりの種類の描き分けがすごい。スライムと唇の部分はもっと近づいて至近距離で観ると差が分からなくなるような、似た様な色が塗られた画面でしかないのですが、ちょっと離れて観れば質感の違いがありありと感じ取れます。
「slime CXXIII」
スライムが顔に乗っていることで、皮脂の分泌や体温などをより意識して感じてしまう。
「slime CXXIII」(部分拡大)
こたおさんの描く唇の表現がすごく好きです。これは私のフェチなのか。
「slime CXXVI」
では、生きていない、赤ちゃんの人形の上にスライムが乗っていたらどう感じるか。生きていないモノの上ならぬめりを感じないか、否か?
「slime CXXVI」(部分拡大)
ぬめりを嫌がって顔を背けているように見えます、、、。私は赤ちゃんの人形に感情移入しているのか、、、?
「slime CXXI」
「slime CXXI」(部分拡大)
「slime CXXI」(部分拡大)
「slime CXXI」(部分拡大)
近づくと筆跡もしっかりあり、何を描いているのかが掴めなくなります。そこにはっきり見てとれた「ぬめぬめ」が、また分からなくなってしまう。生きている実感とも取れる「ぬめぬめ」は、視野を広く取ることで再び現れますが、掴もうとして掴めるものでもないようです。
「slime CXXII」
これは、見方によってはすごいフェチになるのでは? とビビりつつも、影の黒と全体を覆うスライムの黒との違いを表現する巧さのほうにもビビりました。
「slime CXXII」(部分拡大)
指が透けて見えている。孵化というキーワードも浮かんできます。
「slime CXXVII」
私は個人的にこの作品から一番元気をもらいました。生きる活力をもらった!笑
「slime CXXVII」(部分拡大)
なんとなく、このスライムの色が予想できるような、質感、半透明感、です。青っ洟をすする音が聞こえる。生きてる感。
最後に、本展の作品の中で、今までのこたおさんの作品とちょっと違って見える2作品をご紹介します。
「slime CXXV (1) 」
「slime CXXV (2) 」
スライムは、薄い膜のように存在しているのでしょうか?
「slime CXXV (1) 」(部分拡大)
「slime CXXV (2) 」(部分拡大)
この2作品が、今までの作品とどう違うかという話ですが、今までのスライム作品では、「窒息」や「圧迫」など「死」に近づく状況をこたおさん本人が実際に顔にスライムを乗せることで体感し、それにより得た「生」「生きている」という実感を表現されていたと思うのですが、こちらは暗闇に浮かぶ赤ちゃんが映画「2001年宇宙の旅」の「宇宙空間に漂う巨大胎児」を想起させ (私見です)、新しい何かに生まれ直すような形での「生」と、併せてそれまで存在していたものの「死」、を感じさせるという部分です。インスタグラムの初期には赤ちゃんの絵が多く見られるので、ご本人からすると何か別の意味もあるのかも知れませんが、私にはそう見えました。
本展の作品はオンラインエントリーを通して販売されています。実力、人気共にある作家さんなので、当サイトの趣旨で区切った〜50万円の価格帯からは大きく上回ってしまうのですが、10万円台のマルチプル版画作品 (エディション数各25) などもあります (詳しくは展覧会ページのリンク先でご確認ください) 。
左:「slime CXXIII (マルチプル版画作品) 」 右:「slime CXXI (マルチプル版画作品) 」
こたおさんの作品を観て、社会に対する閉塞感を感じ取る人もいると思いますし、個人的なフェティシズムを強く感じる人もいると思いますが、いずれにしても、「生」「死」という、難しく、身近なテーマに個として向き合っている姿が、観る人の共感を得ているのではないかと思いました。
近づいて観ると、掴めていたものがちょっと遠ざかってしまう感じも何とも哲学的でリアルです。ぜひ味わいに、足を運んでみてください。
展示風景画像:友沢こたお 個展「Monochrome」
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