ROY TARO 個展
「怒りの海 The Sea of Rage」
会 期:2022年7月20日(水) - 2022年7月31日(日)
時 間:11時-18時
休 廊:月火
場 所:CREATIVE SPACE HAYASHI
展覧会URL:
ROY TAROさんは1994年生まれ、早稲田大学法学部卒業。大学の最終年次にミクロネシアのヤップ島を訪れ、資本主義の理から外れた環境を目の当たりにし、自身が進むのは表現の世界だと考えるようになったそうです。それまでに絵を描くということはして来なかったそうですが、私はそのことにとても興味を持ちました。ROYさんは写真や詩の制作を経て、ペインティング作品の制作に辿り着きます。ROYさんの作品や展示の全体像からは「伝えたいもの」という確固とした何かが感じられ、その「伝えたいもの」を伝えるための作品制作という至極自然な道すじを感じます。目的と手段がひっくり返っていない。伝えたいものが伝わりやすいように試行錯誤する中で写真や詩という手段があり、ペインティングがある。元から絵を描くことが好きだったりすると、絵を描くための理由を後から探すというベクトルが生じることがありますが、それは手段のための目的。ROYさんの場合は、伝えたいものがあって、一番伝わりやすい形ということでペインティングに辿り着くという、目的のための手段になっています。シンプルなことであるのですが、アートの世界に限らず、手段と目的の関係がひっくり返ってしまう状態は日常的に存在するのではないでしょうか。
ではROYさんが伝えたいもの、表現しているものとは何でしょう? ROYさんの作品制作のキーワードとして「翡翠の太陽」という言葉があります。これはROYさんによる造語だそうです。「翡翠の太陽」とは何か、また本展タイトルの「怒りの海」とは何か。
「Sea of Rage 怒りの海」
展覧会のキービジュアルになっている作品。
翡翠色の太陽と海を確認できますが、一見、黄色い部分がデフォルメされた恐竜のような生き物の顔に見えました。
「Jade Sun 翡翠の太陽」
「Jade Sun 翡翠の太陽」(別角度より撮影)
窓に飾られた4作品は、ROYさんが大島を訪れたことで生まれたそうです。手前のオブジェも気になります。
鳥居を目にして「思ったより和風なんですね!」という短絡的な感想を述べてしまった私、、、苦笑。
鳥居はこちらにも。鳥居とは結界。神の領域と俗世界の境界。
翡翠の太陽がいる。
こちらにも翡翠の太陽。
オブジェには文字が。この太陽は赤いのかしら (右上)。
ペインティングにも文字が (山の部分)。
左より「Bird Flying To The Sea 海へゆく鳥 ①」「Bird Flying To The Sea 海へゆく鳥 ②」「Bird Flying To The Sea 海へゆく鳥 ③」「Bird Flying To The Sea 海へゆく鳥 ④」
「Bird Flying To The Sea 海へゆく鳥 ①」
鳥もいるけど、トンボのようなものもたくさんいます。翡翠の太陽も確認。
この作品は4つで大きな1つの作品となっていますが、4コマ漫画のように時間の経過があるものかも知れない。海の向こうに描かれた島 (山?) の大きさが変化している。
「Bird Flying To The Sea 海へゆく鳥 ③」
黒い光のようなものも見える。
「Bird Flying To The Sea 海へゆく鳥 ④」
空に浮かぶもの。近くなった島。
床に置かれた手紙のようなもの。
これは「Bird Flying To The Sea 海へゆく鳥①〜④」の元になる詩だそうです。
手にとって読むことが出来ます。
他の作品にも描かれている「黄色い空」。気になります。
この詩を読み、「怒りの海」というのが、例えばプラスチックごみ問題のような環境問題を論じようとしているわけではない、と分かりました。海が抱える怒りとは、人間も含む生命全体や精霊体も抗えないような大きなもの。「怒り」と聞くと、ネガティブなものや鎮めるべきもののように感じがちですが、どうやらそれとも違う。海のうねりのように鎮まらないもの、生命の起源となる活動、そんなもののように感じられました。
「Jade Light 翠の光」
「Jade Sea 翡翠の海」
「Blue Mountain 青い山」
右:「Symphony Of Island 島の交響」
この三角形は会場のインスタレーションの一部です。
鳥居が見える。結界か。
会場の作品の形は○△□が揃っているんですよね、、、。○△□で浮かんでくるのは、ポール・セザンヌが「自然を球体、円錐、円筒で扱うこと」を旨としたことや、鈴木大拙が敬愛した臨済宗の禅僧・仙厓義梵による「○△□」だけを墨で描いた禅画などが思い浮かびます。それらから、○△□には、私たちが生きる世界の全ての要素というイメージがあります。会場にはその全てが存在し、世界を形作っている、、、。
会場の対角線上にあたる向かいの角には赤い三角形が置いてあります。やはり結界か (私の妄想です) 。三角形のオブジェの緑と赤は補色の関係。空の青と黄色も補色の関係。試しにROYさんの作品をスマートフォンの設定で色反転して見ると翡翠の太陽は赤、黄色い空は青になり、翡翠の海は赤くて怒っているようにも見えるんですよね。「怒りの海」とはそういうことではないと思いますが、作品が不思議な色合いであるのに違和感をあまり感じないのは色反転した世界でも調和が取れているから、なんでしょうか。
「Dream Of Black Sea 黒い海の夢」
黒い海は色反転すると光を受けた白い海に見えます。
「Night Vision : Sea 夜のビジョン : 海」
夜には蝶や虫が透明になって潜んでいる。
右:「Wave 波」
こちらの紙片に書かれた文字が古代の文字のよう、と一瞬思ったのですが、裏に返して回転させると英文が書いてあります。ROYさんの詩の一部が破られている。
偶然にもこの古代文字に見えたインスタレーションから、古の神話を紐解くという姿勢で展示を観ていくことにしました。
会場には小さい色紙に描かれたドローイング作品があります。作品の元となるモチーフが見つかることも。
「Luminous Sea 輝く海」
これは太陽ではない。海。
神話を探るためのアイテムは豊富に揃っています。
「WorldⅠ 世界Ⅰ」
言葉も重要です。
「Sun Gazer」
太陽を見つめる者。
中庭に飾られたJade Sun
これ、色反転すると日の丸に見える、、、。
「Sun Gate 太陽門」
「Sun Gate 太陽門」(別角度より撮影)
太陽門をこえて、奥の展示室へ。
「Sea Of Myth 神話の海」
「Drawing Of Island 島のドローイング」
神話の中枢に入っていく感じがして、ワクワクします。翡翠の真髄にまみえる。
上:「Jade Sun Is Coming Up あらわれる翡翠の太陽」
下:「Portrait Of Jade 翡翠の肖像」
上:「Star Trail 星の軌跡」
中左2点:「Sea Of Myth 神話の海」 中右:「Azure Sky 青空」
下左:「Small Tale 小説」
上:「Dream Of Sea Of Myth 神話の海の夢」
中左:「Black Island 黒い島」 中右:「Island With A Gate 鳥居のある島」
下左:「Sun Gate 太陽門」
「Wings 翅」
上:「We Are Looking For The Shore 岸辺を探している」
『ジョン田中と翡翠の太陽の物語』
この物語の中に真髄が詰まっていると思いました。
個々の作品はもちろんですが、会場全体を使ったインスタレーションのオブジェや散りばめられた詩の欠片などを味わうと、室内であるのにここが海辺であるような、不思議な感覚に包まれます。
翡翠の太陽について、ROYさんは「太陽の輝き」「輝く太陽」をイメージした時に「Jade Sun」という言葉が浮かんだそうです。ROYさん作の物語『ジョン田中と翡翠の太陽の物語』の中で、ジョン田中は「みどりの太陽なんてありませんよ」「そんなこと言っても、今朝の太陽はオレンジ色だ。それは誰にもかえられません」と言いながら、パラソルの男と会う前には、自然と、この世界にはたくさんの太陽があるように感じていたり、朝の砂浜が七色に輝いて見えたりしていました。パラソルの男と別れた後、その日の太陽が昇るのを待って色を確認するという行動に、「そういうこともあるのかもしれない」という思いが表れています。
黄色い空や黒い海、翡翠の太陽が描かれているROYさんの作品を観て違和感を感じないのはなぜなんだろう? 色を反転してみたりと納得する理由を探ってきましたが、シンプルに、そういうこともあるかもしれないと、立ち止まって考えられるからなのではないか。
一時期ネットで話題になった画像で、このドレスが何色に見えるか? というものがありました。「青と黒」に見える派と「白と金」に見える派がいて、どうしてそういうことが起きるかというと、画面全体の光量や逆光か順光かなどを脳が勝手に補完し、色を判断しているからなんだそうです。
こちらの画像です。どう見えるでしょうか?
この現象から言えることは、私たちは思い込みでものを見ている、ということです。おそらく、色に限らず、見ているもの全てに思い込みが介在している。
人間なんて、地球や宇宙から見たら新参者もいいところで、恐竜の時代や、それ以前のことに思いを馳せると、変わらず打ち寄せる波などが途轍もなくすごいものに感じられます。恐竜も動物も人間も静かに死んでいく。そしてくり返し怒りの海をこえる。
ROYさんの作品群からはそのような神話を感じ取ることが出来ました。新参者の人間の、短い歴史の中での思い込みを取り去った目で見ようとすること、そんな時間を贈られた気がします。
会場の CREATIVE SPACE HAYASHI さんからは歩いて10分ほどで茅ヶ崎の海岸に出ることが出来ます。
えぼし岩。
肌がひりつくほど暑い日なのに、砂浜の風は激しく、海は変わらず怒りに燃えていました。
大きな視点に立ち戻らせてくれる展覧会でした。神話に触れに、ぜひ足を運んでみてください。
展示風景画像:ROY TARO 個展「怒りの海 The Sea of Rage」
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