品川はるな 吉岡寛晃 二人展
「New Look of the paintings by Haruna Shinagawa and Hiroaki Yoshioka」
会 期:2022年8月26日(金) - 2022年9月18日(日)
時 間:12時-19時
休 廊:月
場 所:EUKARYOTE
展覧会URL:
https://eukaryote.jp/exhibition/new-look-of-the-paintings/
現時点のAI には描けないだろうな、というペインティングを観ました。
品川はるなさんは1995年生まれ、東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業。予めマスキングを施しておいた画面に絵の具を塗り、任意の位置まで引き剥がすという手法で作品を制作されています。
吉岡寛晃さんは1993年生まれ、京都造形芸術大学 (現:京都芸術大学) 芸術研究科芸術専攻ペインティング領域修了。キャンバス生地から型取ったシリコン型にペインティングをして得られた「キャンバスの複製」をパネルに貼り付けるという手法で作品を制作されています。
画像を見たほうがよく分かるかも知れません。
左:「Peal off the paint "No.185"」 右:「Peal off the paint "No.176"」
おお、剥がされている、、、。これらは品川さんの作品です。
「Peal off the paint "No.185"」
EUKARYOTEさんのInformationには「緞帳を暗示するかのよう」と書かれていましたが、確かにドレープが美しくて、これから舞台が始まる様な、厳かで高揚するような感覚になります。
「Peal off the paint "No.176"」
左:「Peal off the paint "No.189"」 右:「Untitled」
「Peal off the paint "No.189"」
剥いたところ、気持ちいいです。フェチを感じる。
「Peal off the paint "No.189"」(部分拡大)
画像では分かりにくいですが、細かいラメのようなものが入っている描画材です。車のボディのようにも見える。
「Untitled」
こちらは吉岡さんの作品です。
「Untitled」(部分拡大)
地のキャンバスの目と同じ様な目が、シルバーのカラー部分にも浮き出ています。キャンバスの目をかたどったシリコン型に層状のペイントを施し、型から剥がして貼るという手法。
2階へ。まずは品川さんの作品群から。
「Peal off the paint "No.181"」
「Peal off the paint "No.181"」(別角度より撮影)
ドレープきれい。なんか美味しそう (チョコか?) 。
「Peal off the paint "No.186"」
ちょっと顔に見える。横顔。
「Peal off the paint "No.186"」(部分拡大)
アクリル絵の具がパレットの上で固まったのを剥がす時のような、やや親しみのある質感なんですが、このスケール感で作品として見ると、最早、絵の具というよりは「物体」というのを強く感じます。黒いビニル袋のような。いや、絵の具はそもそも「物体」か。
「Peal off the paint "No.180"」
「Peal off the paint "No.180"」(部分拡大)
シルクのスカーフみたい。
「Peal off the paint "No.178"」
「Peal off the paint "No.178"」 (部分拡大)
薔薇の花びら (を連想する) 。
「Peal off the paint "No.188"」
「Peal off the paint "No.188"」(部分拡大)
これは金属板 (に見える) 。
何かのモチーフを描くのではなく、絵の具の構成要素 (アクリル絵の具なら顔料とアクリル樹脂) である「物質」を見せているのに、「物質」は通り越して、シルクスカーフやら花びらやら金属板といった「もの」を感じられる。あ、ペインティングってそういうことですね。
私の中で言葉の定義がはっきりしていなかったので「物質」と「物体」の使い分けについて調べたところ、こちらのページに辿り着きました →【中1理科】3分でわかる!物体と物質の違い〜物質の見分け方まで徹底解説〜
上記のページによると、
物質:できている材料から見分けた時の「もの」
物体:見た目や使い方で見分けたときの「もの」
ということです。
具体的な例としてスプーンが挙げられており、「物質」としてのスプーンは銀とか金属などの材料を、「物体」としてのスプーンは食事の時に食べ物を口に運ぶための道具という認識の違いがあります。
ではペインティングの場合はどうか。例えばスプーンが描かれたオイルペインティングは、「物質」としては麻、顔料と油、といった要素から成り立ちますが、認識されるのは描かれた「物体」(スプーンという道具) と言えるかもしれません。ここから、用いた「物質」と関連性のない「物体」を連想させるのがペインティングである、と定義したとします。
アクリル絵の具を剥がして完成する品川さんの作品は、アクリル絵の具の「物質」面が強く意識されるのかと思いきや、何か別の「物体」を連想させるものでもあったので、これはペインティングだ!と思った、という感想です。
そして吉岡さんの作品群。
キーワードは「物質」を通り越した「物体」感か。
「Untitled」
「Untitled」(部分拡大)
「Untitled」
「Untitled」(部分拡大)
支持体のキャンバスの布目と、貼られたアクリル絵の具の布目。凸凹のテクスチャのある絵の具という点では表面に見えている「物質」に差はない。差はないはずだけど、貼ってあるほうがより「布っぽい何か」という「物体」を感じ取ってしまう。これはペインティングだ、とその厚みで判断しているのか? キャンバスの地だって布だし、乗っている絵の具にも僅かな厚みはある。同じ「物質」なのに鑑賞者がペインティングかそうじゃないかを判断する差はどこにあるんだろう? 貼ってあるほうは実際の布地ではないことが答えなのかも。「物質」としては顔料とアクリル樹脂であり、麻の布ではない。「物質」とは関連性のない「物体」を想起させるイリュージョンが起こったらペインティング (という私の仮説) 。
3階へ。
「Untitled」
おお? 吉岡さんの作品に色の模様が出現している。
「Untitled」(別角度より撮影)
サイドにはダンボールという「物質」であり「物体」であるものが貼ってあります。
品川さんの作品は色が 2 色以上用いられたものが並びます。
「Peal off the paint "No.187"」
「Peal off the paint "No.187"」(部分拡大)
おお、剥がされていない部分だけ見ると印象派が描いた水面のように見えなくもないですが、剥がされていることで、ペインティングそのものの「物体」を感じる。「絵」という用途の「物体」です。
「Peal off the paint "No.172"」
「Peal off the paint "No.172"」(部分拡大)
「Peal off the paint "No.173"」
「Peal off the paint "No.173"」(部分拡大)
「Untitled」
これは、、、吉岡さんの作品だけど、下の階の作品と違うぞ。
「Untitled」(部分拡大)
どこを貼ってるのだろう。
「Untitled」(別角度より撮影)
この作品は全体が貼られています。画面の凹凸はキャンバス地から得られた凹凸だけで描画材による凹凸はない。描いた順が逆になって見えている。表面に現れているのが一番初めに描いた部分。キャンバスをかたどったものに描画し、それを剥がして貼るので可能になる見え方。吉岡さんの以前の展示ではこのように色の層の順序が見えるタイプの作品が見られます。改めて気づきましたが、下の階で見てきた吉岡さんの作品も絵の具の層が通常と逆になっているということです。
「Untitled」(部分拡大)
点描とは少し違う色の輪郭。油分に弾かれているような形状です。曜変天目のように見えなくもない。偶然も関係していそう。
「Peal off the paint "No.183"」
品川さんの作品も絵の具の層の裏が見えています。
「Peal off the paint "No.183"」(別角度より撮影)
品川さんも吉岡さんも、アクリル絵の具だからこそ出来る手法をとっていて、それは物の性質 = 「物質」に依った手法であるけれども、「剥がす」「貼る」というように「もの」のように扱うことで「物体」として強く意識させているのだと思います。絵に描いた「スプーン」を「物体」として意識させるのでなくて、「絵」「ペインティング」そのものを「物体」として感じさせている。展覧会タイトルの通り、新しい絵画の外観「New Look of the paintings」とはそういうことか。「物質」とは関連性のない「物体」を想起させるイリュージョンが起こったらペインティング、という私の仮説がもう一回ひっくり返されて、顔料やアクリル樹脂という「物質」と、絵という「物体」の距離が近づいている。ペインティングを構成する「物質」そのものに注目させながら「物体」として切り離すという外観。
「Untitled」
「Untitled」(部分拡大)
絵の具の層の様子が見えます。
「Untitled」
「Untitled」(部分拡大)
初めに描かれた、と予想される線。
少し脱線しますが、先日、「カラーフィールド 色の海を泳ぐ」展をDIC川村記念美術館で観てきました (2022年9月4日 会期終了) 。カラーフィールド・ペインティングは1950年代後半から60年代にかけてアメリカ合衆国を中心に発展した抽象絵画の一動向です。色彩 (カラー) を用いて、鑑賞者が包み込まれていると錯覚するような場 (フィールド) を作り出しているのが特徴です。 作品が巨大であることも特徴の一つですが、他に、描画材に理由がある作家が多いことが印象的でした。油絵具でも描けるけど乾くのが早いからアクリル絵の具を使った、というのではなく、アクリル絵の具の速乾性を用いなければ描けない、というような理由です。「カラー」ときくと、デジタルネイティブ世代にはデータ上のイメージが先行するように思いますが、少し前までは、絵画に用いられる「カラー」は石などをくだいた粒であって、厚みや重さというような実体のあるものだった。「カラー」を重視することは物の性質「物質」を重視することでもあった、と言えるのかも知れません。
本展「New Look of the paintings」における品川さんと吉岡さんの作品が「物質」としてのアクリル絵の具の性質を活かした手法で制作されており、結果、その「カラー」にも惹かれる作品が多いのを見ると、「カラー」と「物質」の面白い相関が見えるなぁと思いました。
「カラー」を含めた「物質」に注目させることでペインティングそのものを「物体」として意識させる作品群です。描くモチーフを「物体」と認識させようとしているAI の発想は古い (AI に対しては辛辣な意見を述べがちな私です) 。新しいペインティングは本展で観ることが出来ます。ぜひ、足を運んでみてください。
左:「Peal off the paint "No.177"」 右:「Peal off the paint "No.184"」
展示風景画像:「New Look of the paintings by Haruna Shinagawa and Hiroaki Yoshioka」
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