天牛美矢子 個展「偉大なるタムタム」
会 期:2022年10月8日(土) - 2022年10月23日(日)
※終了⽇は変更になる場合あり。
時 間:11時-19時
休 廊:月
場 所:FOAM CONTEMPORARY
主 催:銀座 蔦屋書店
展覧会URL:
https://store.tsite.jp/ginza/event/art/29041-1537340921.html
天牛美矢子さんは1989年生まれ、京都市立芸術大学大学院修了。ご実家が古書店という環境で育ち、物語や印字そのものの持つ「魔力」から発展した作品を制作されています。本展「偉大なるタムタム」は、展示空間全体で表現される呪術的な世界観が楽しめる展示ですが、深く観ていくと、今現在の私たちがまさに直面していて考えていかなければならない、厳しい現実に対する示唆が込められたものでした。
民間信仰が残る集落にうっかり来てしまった感、があります。その中の一つのお家にお邪魔しているような。壁が黄色いのも部屋の壁紙を連想させます。
まずは、この世界観を楽しんでしまいました。
「偉大なるタムタム」
周りをぐるっと囲んでいる黒いファーとビーズは宇宙の象徴に見えます。世界を造ったのはタムタム、いや、世界そのものがタムタム、というような教えを連想しました。目を合わせてはいけない、みたいな伝承がありそう、、、(いや、もろに見てしまった) 。吸い込まれそうです。
以下は脇侍? とも捉えられるキャラクターたち。
「Demon/Nightmare」
ナイトメアのデーモン。序盤の鍵となってくるボスか? ( 注:私は「〜のデーモン」と聞いてフロム・ソフトウェアのゲームを連想しています) 。
「Demon/Thumper Rabbit」
とんすけのデーモン。「とんすけ」はバンビに出てくるうさぎです。闇堕ちしたのでしょうか? 彼に何があったのか? 考察せねばなるまい。
「ヤギおじさんのありがたいお言葉」
魅力的なキャラクターです。ゲームの中盤以降にこの言葉の謎が解けるのか、、、?
「魔女」
敵対はしなそうなお顔。その理由も後ほど考察します。
「Child/Sunflower」
子供は無垢ゆえ、、、恐ろしい時もある。
「Child/Rat」
ネズミの皮を被る子供、、、。
「Demon/Daphne」
ダフネのデーモン。ダフネというと、アポロンの求愛が嫌過ぎて自らを月桂樹に変えてもらうギリシャ神話が有名だったりします。なんでそんなことになったかというと、元はアポロンがエロースを揶揄したことが原因で、エロースがアポロンとダフネに悪戯したというもので、ダフネ本人は全く悪くないじゃん、という話でもあります。
魅力的なキャラクターの他には、呪物的な品々がいろいろ展示されています。考察するにはなかなか手強いなー、などと思いながら観ていると、在廊されていた天牛さんご本人に声をかけていただき、お話を伺うことが出来ました。
デーモンや魔女という登場キャラクターや何かの信仰を思わせる世界観の元には、現実の私たちも直面し得る「受け入れ難い現実」というものがある、とのこと。ご実家の古書店にある書籍を例にとっても、明治時代の紙は丈夫で状態もよいが、戦前、戦中、戦後の時代のものは明らかに紙質が悪くなっていたそうです。「受け入れ難い現実」の中には「戦争」というものもしっかり含まれています。
「Spell/hoshigarimasen」
「Spell/hoshigarimasen」(部分拡大)
髑髏やデーモンが見えますが、書かれている呪文のようなものは「ほしがりません かつまでは」です。言わずと知れた、第二次世界大戦中の日本でよく唱えられた「国策標語」の一つで、意味は、戦争に勝利するまでは、ぜいたくしない (欲しがらない) というものです。
他に、第二次世界大戦時にスローガンとしても多用された「うちてしやまん」も登場します。『古事記』などに登場する、戦いの勝利を祈願する歌謡によく使われる表現で、敵を討ったら戦いをやめる、言い換えれば、「敵を討ち破るまでは戦いをやめない」という意味です。
「Spell/ABRACADABRA」
「Spell/ABRACADABRA」(部分拡大)
「Spell/uchiteshiyaman」
「Spell/uchiteshiyaman」(部分拡大)
国策標語やスローガンは、何も過去の過ぎ去った事柄ではなく、2022年現在の世界でも起こっている「戦争」のことを考えると他人事ではいられない話でもあります。例えば、当サイトのようなブログ形式記事の広告主とも言えるGoogleからも、「ウクライナでの戦争を受け、Google は、戦争を利用するコンテンツ、戦争の存在を否定するコンテンツ、または戦争を容認するコンテンツを含む広告の収益化を一時停止します」という注意が与えられています。言葉による心理的な誘導は認めない、ということと理解しています。
この「ほしがりません」や「うちてしやまん」に対して、私は状況によっては肯定も否定もする立場になり得るな、ということを考えました。このように作品として、呪文が書かれた呪物のようなものとして、客観的に、また、立体的に見ることが重要な意味を持つのだと思います。
「ヤギおじさんのありがたいお言葉」
再登場。このヤギおじさんのお言葉「黙れ!」を、どの文脈で差し込むかによって、この感想記事の主旨も変わりそうです、、、。「Googleさんからの注意」を具現化したものとして受け取ってみました。
「TALK LESS」
言論統制をイメージしてしまいました、、、考えたくないけれど、現代のTwitterなどでも、特定の人の声は簡単にミュートされそうな怖さがあります。
「Demon/Thumper Rabbit」
再登場。とんすけは、思ったことをなんでも口に出してしまうといった困った一面がある、というキャラ。なるほど、デーモン化したわけですね。
「Propagare の悪魔」
めちゃ勲章ついてる。Propagare (プロパゲール) は「種をまく」という意味のラテン語、プロパガンダの元となった言葉だそうです。
「水商人」
「水商人」(部分拡大)
「水商人」(部分拡大)
女性が酷い目にあってる、、、。
「斯くして女神は魔女となった」(画面部分)
「斯くして女神は魔女となった」(画面部分拡大)
戦闘機に描かれた「ノーズアート」。機体への愛着心や士気を高めるため、女性のピンナップが多く描かれました。これはピンナップガールが「もうやってられないわ」と、機体から出てきた図だそうです。斯くして女神は魔女となった。
話が逸れますが、ウクライナでの戦争で道具などにキャラクター的顔が描かれたものをSNSで見ました。キャラクター絵画 = 現代のピンナップ という見方が出来るのか。悲惨な現実から少しでも意識をそらせる「快」の象徴の変遷を感じました。
「魔女」
再登場。魔女は元は女神だったんだ、、、。
「Poppy field」
赤いけし (ポピー) の表すもの。第1次世界大戦の激戦区だったフランダースの野で、生い茂っていたのは赤いけしの花だったと言います。キルトになっている生地は軍服です。傷痍軍人が軍服を使用してパッチワークキルトを制作することに由来しているそうです。
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英国では毎年、第1次世界大戦が終わった11月11日が近づくと、他の戦争を含めて、戦没者追悼を意味する赤いけし(ポピー)のバッジを胸につける人が増える。
1921年に在郷軍人会が始めた習慣が定着した。
(BBC NEWS JAPAN 複雑な「けしの花」 英国の戦没者追悼シンボルをつける人とつけない人 導入記事より抜粋)
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昨今では戦没者追悼というシンプルな意図ですら、新たな争いを生む火種になっているようです。以下は本展には含まれませんが、赤いけしの花をめぐる現状についてのBBC NEWS JAPANの動画《複雑な「けしの花」 英国の戦没者追悼シンボルをつける人とつけない人》です。ご参考まで。
皆、平和を望んているはず、と思うのですが、意見の違いはいつでもどこにでも存在していて、また、いがみあってしまうと思うと何とも言い難い気持ちになります。
人の悪意は、戦時中でなくとも、至る所で、些細なきっかけにより生まれてしまう、、、。
「迷宮は鳩の夢を見る」
これは魔除けだそうです。
「迷宮は鳩の夢を見る」(部分拡大)
魔物は直線方向にしか進めない、という考えは沖縄地方にも存在します。迷宮は、そのように直線にしか進めない魔物の侵入を防ぐもの。
「目をひらき夢を見よ」
天牛さんには「信じるとは怖いもの」という思いがあるそうです。確かに本展の作品からは、プロパガンダで言われてきたそのものの意味というよりは、それらを盲信することの怖さ、というものに焦点が当たっていると感じます。言葉そのものというよりは、すぐ意味が取れないような、隠れたメッセージのように表現されているのはそのような意図もあるのではないでしょうか?
盲目的にに信じるものがあると、その中に収まらないものは悪になってしまう。先住民に信じられていた神はデーモンへ、女神は魔女へと、簡単に変えられてしまいます。盲目ではなく、目をひらき、見ることが大切です。
本展には、天牛さんが記した様々な文章の作品もあります。
「偉大なるタムタム (2冊) 」
そして、色々なことを示唆している作品が、まだまだ掲載しきれないほど展示されています。
「Funeral」
不思議な形の布だな、と思ったらこちらの素材も軍服でした。
「ぬけがらのパペット」
「楽園の予感」
「楽園の予感」(部分拡大)
赤いけしの花だけではない、様々な花。ひらかれた目。
「We'll meet again」
この作品の詳細な意味は伺わなかったのでこれは完全に私見ですが、時代によっては悪者にされてしまった者たちが、未来には集まって平和に過ごしている様子に取れました。
「We'll meet again」(部分拡大)
日本にも「〇〇で会おう」という場所があります (繰り返しますが私見です) 。
「Look What I've got (1)」(部分拡大)
偉大なるタムタムがネット越しにこっちを見ている、、、。
戦争に限らず、盲目的に信じることの恐ろしさは、色々な事柄から考えさせられる昨今です。パッと見て可愛らしい作品群ですが、込められたメッセージには深く考えさせられ、頷いてしまうものでした。作品が平面に留まらず立体的である、というのも、これは物語上の話ではなく現実的な問題なのだという理解を助けているように思います。
以上も、私個人の見方の一つでしかありません。広い視野を持って、ぜひ足を運んでみてください。
展示風景画像:天牛美矢子 個展「偉大なるタムタム」
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