hin solo exhibition “inner jewel”
会 期:2022年10月1日(土) - 2022年10月23日(日)
時 間:12時-19時
休 廊:水木 10月11日(火)
場 所:PAGIC Gallery
展覧会URL:
昨年 (2021年) の展覧会「Deep Paper」に続き、hinさんの展覧会に伺ってきました。昨年の雰囲気とはまた変わって、とても明るい印象を受けました。→参考記事: 感想 hin solo exhibition “Deep Paper”
「<h2>inner jewel</h2>」
タイトルにある「<h2></h2>」の表記は当サイト表記の不具合ではなく、そこも含めてタイトルになっています。「<h2>」の「2」は、2番目に大きな見出しという意味なので、展覧会タイトルは「<h1>」で、各作品タイトルは「<h2>」ということかな?
「<h2>I'm here - red poppy</h2>」
この「<h2>」の説明も含めてステートメントが寄せられていました。
会場に掲示されたステートメント
「<h2>」の「2」が意味する「2番目に重要な見出し」という部分は省かれていますが、タイトルではなく作品の内容が 1番という読み方も出来ますね。
hinさんの作品の特徴はピクセルを思わせるカクカクした線です。デジタル上で描かれたようなカクカクした線が「重力によって垂れている」 という通常では見られない部分に、デジタル・デトックスとという試みが表現されています。このピクセル上にあるような線が垂れているのは、”virtual spray”というオリジナルの手法です。この”virtual spray”とは別に、実際のスプレーによる描画も欠かせない要素として作品に存在していて、スプレーで描いた部分が重力で垂れる、という現象に「情報が解毒・分解されるイメージ」が重なっています。それらに、絵画が根源的に持つセラピー効果が加味され、作品のコンセプトとなっています。
「<h2>humor</h2>」
「<h2>humor</h2>」(部分拡大)
白い線をフチ取る黒いカクカクした線、という新たな表現が確認できました。線自体に存在感が出たためか、一見してデジタルっぽい線の印象が増した気がします。
「<h2>humor</h2>」(部分拡大)
「humor」というタイトルや、ステートメントに「一番上の層に存在している黒フチに白線で描かれたモチーフは、偶然目についた脈絡のないアイコンを散りばめ、ウェルビーイングに重要な、無意識・感覚・気分・今などに言及している」とあるように、可愛いものだったりアイコンらしいデフォルメ表現だったり、気分が軽くなるようなものが多く見られました。
本作品「<h2>humor</h2>」の初期段階の制作動画が hinさんのインスタグラムにUPされていました。スプレーの使用も含めて色を乗せていく動作に、自身の感覚に委ねるような軽快さが伝わってきます。→ hinさんのインスタグラム動画はこちら
「<h2>rainbow over medicine</h2>」
「<h2>rainbow over medicine</h2>」(部分拡大)
薄いグレーの線、見えますか? このグレーの線もピクセル感があるカクカクした表現になっています。今回の展示にはこのように「スプレーなどで描かれた色のある層」の上に「カクカクした線の層」がさらに複数層になって現れている作品があります。目に入ってくる「情報」がより複雑になっているのでしょうか。
「<h2>jewel-jewel</h2>」
鈴木春信「ささやき」の縁側の構図を引用した作品。この作品は前回の「Deep Paper」の作品群に近い印象を受けました。
「<h2>jewel-jewel</h2>」(部分拡大)
胸がパカっと開いて宝石が入っています。
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ある日電車に揺られていると「心にいっぱい宝石を集めていきたいな」という言葉が浮かんだ。そのことがすごく嬉しかった
自分から湧き上がる言葉で癒しを得た体験だった
hin
(PAGIC Gallery Exhibitionページより抜粋)
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本展で印象深かったのは、花が画面いっぱいに咲き乱れているような表現と共に、まるで花の精のように複数の女性の顔が描かれている作品群です。
「<h2>inner jewel</h2>」
「<h2>inner jewel</h2>」(部分拡大)
心の中の宝石、パカっ。
「<h2>inner jewel</h2>」(部分拡大)
複数の種類の花の表現と、それぞれ違う女性の表情が確認出来ます。一番上の層の白い線で描かれた花のアイコンもあります。
この花や人物の表現については、
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絵の中で咲いている花や植物は、広義的に大きな自然の巡りを表現するとともに、個人的な祖母との思い出や命という意味を見出している。
(会場に掲示されたステートメントより抜粋)
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作品に描かれた人物は、ある視点では群像、またある視点では自画像である。
(会場に掲示されたステートメントより抜粋)
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と言及されています。
会場に掲示されたステートメントには「バランス」「調和」という言葉がたびたび出現しています。バランスの乱れを是正する手段としての「デジタル・デトックス」があり、絵画作品が持つセラピーとしての効力があり、それらがウェルビーイングに繋がっていく、という考えが窺えます。バランスを取るとは、対立するものの割合の調整である、とも言えます。本展の作品には「デジタルとアナログ」という二項対立だけに止まらず、「自然と個人」や「群像と自我」、「明確なコンセプトと脈絡のないもの」といった要素を俯瞰し、それらのバランスを構図内で調和させるというものが多く見られました。
「<h2>I am blooming</h2>」
「<h2>stay gold</h2>」
「<h2>hung out lazy utopia</h2>」
「<h2>lemon light</h2>」
hinさんの前回の展示「Deep Paper」でも、デジタルを完全に排除するというのではなく「折り合いをつけていく」という言葉がありました。今回の展示作品では、黒くフチ取られた太い白線、重ねられた線の層、描かれているアイコンの多さ、など、デジタル的表現の要素が明らかに存在感を増していて、そして「バランスを取る」という言葉に、「折り合いをつける」よりも肯定的な、共存への前向きな要素を読み取ることが出来ます。画面からも、何だか楽しくなるような気持ちが伝わってきました。展覧会タイトル「inner jewel」や「心にいっぱい宝石を集めていきたいな」というhinさん本人の言葉に表現される内にある宝石は、ウェルビーイングの状態を表していると言え、その状態で認識する世界には、デジタル的要素が増えていたとしても調和された美しい光景が広がっています。
再度、会場に掲示されているステートメントより引用します。
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あらゆる情報が人生に介入してくる世界で、「世界に一人しかない自分」という自己認識の確立には、どのような思想が必要か?
それには、自然に属し、大きな自然という巡りの一つである自分を思い出すことが有効なのではないか。
そのことにより本来の場所に立ち返ることができるのではないかと思う。
(会場に掲示されたステートメントより抜粋)
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自分自身のことを顧みると、あらゆる選択において「自分で選んできた」という思いがあるのと同時に「自然とたどり着いた」と思わざるを得ない事柄も多くあります。そして「一生を終えてのちに残るのは、われわれが集めたものではなくて、われわれが与えたものである」という、三浦綾子さんの『続・氷点』に引用されている言葉 (ジェラール・ショドリーというフランスの聖職者の言葉だそうです) が思い浮かびます。どこかで「生かされていて」それは「何かを繋ぐためである」とすると、「大きな自然という巡りの一つである」ということにも考えが及びます。hinさんの「<h2>I'm here」のタイトルから始まる 2作品は自身の本来の場所に立ち戻った姿と捉えることが出来、それは他作品でもなされてきた「バランス」と「調和」を経た結果得られた、ウェルビーイングの状態ということでしょう。
「<h2>I'm here - dogwood</h2>」
「<h2>I'm here - red poppy</h2>」
最後に「色」の要素について。カクカクした「線」や垂れた「線」の表現に特徴を感じる作品群ではありますが、hinさん本人の「アート作品がもたらした精神面のバランス調整」の経験には、「色」の印象が強く残っているようです。
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イギリスで見たマティスのかたつむり、東京で見たアンディ・ウォーホルの版画作品のショッキングピンク、本屋で見たミッフィーの絵本の見返し紙のエメラルドグリーン。
(会場に掲示されたステートメントより抜粋)
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本展の作品群は「線と色」というhinさん本人が持っている特徴が、どちらかに偏ることなく、調和した状態で堪能出来るものになっていました。観てて本当に楽しい気分になった、というのが私の感想です。
様々な要素のバランスが取られた画面に、「デジタルとアナログ」を超えた意味が感じられた展覧会でした。色もとても輝いて見えます。ぜひ、足を運んでみてください。
展示風景画像:hin solo exhibition “inner jewel”
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