Tat Ito solo exhibition
「風の強い空と捕虫網と虫眼鏡」
会 期:2022年12月10日(土) - 2022年12月28日(水)
時 間:13時-19時
休 廊:月火
場 所:TAKU SOMETANI GALLERY
展覧会URL:
https://takusometani.com/2022/11/25/tat-ito-solo-exhibition/
TAKU SOMETANI GALLERY さんにて開催のTat Ito さんの個展「風の強い空と捕虫網と虫眼鏡」のレセプションに伺ってきました。作品を拝見するのは初めてでしたが、Tatさんとは前職で共に働いていたこともあり、具体的な多忙具合が何となく想像出来るため「時間は作るもの」なんだなと、そういう部分でも改めて頭が下がりました。
Tat Ito さんは愛知県名古屋市生まれ、Academy of Art University, San Francisco(BFA)卒業、New York Academy of Art (MFA)修了。国外での作品発表も多く、主な展覧会としてJoshua Liner Gallery(NY)、Above Second Gallery(香港)にて個展、Anne Mosseri-Marlio Gallery(スイス)にてグループ展等があります。現在は東京に拠点を移し活動しています。
本展「風の強い空と捕虫網と虫眼鏡」では、日常的に集積された視覚的・聴覚的情報や記憶を再構築し表出した作品群が展示されています。印象に残った事物を、一度メモのような簡単なものに置き換え、後からその記憶を呼び起こすというプロセスを経て描かれた作品群は、ヒエロニムス・ボスの「快楽の園」のような異世界の群像画のようにも、日本のサブカルチャー誌の表紙に見られるような想像上のコミカルな表現にも、遠近法を用いず重要なものを大きく描いた後期ゴシック〜初期ルネサンス期の画家たちの作品のようにも感じられ、人によって受ける印象が異なる不思議な世界観を形成しています。
美術館等で午前中に観た同じ作品を夕方になってから観ると印象が違う、そんな経験をしたと言う Tat さんですが、前述の制作プロセスには、その経験に関連したような、時間の経過やそれに伴う周囲の状況の変化によって無意識のうちに蓄積された「自己の経験」を通してから「記憶」を表出する、という意味合いがあると言えます。午前中に観た同じ作品を夕方になってから観ると印象が違う、という経験はひょっとしたら誰にでも心当たりがあるもので、自然光の下で鑑賞する場合などの時刻や天候の違いによる環境的な理由と、時を経て改めて触れる文学や映画などに新たな感じ方を見出すといった内面的な変化に起因する理由とが合わさった現象です。同じような「経験」をしても人によって受け取り方や変化の質は異なり、その「自己の経験」というフィルターを通すことで、作品をよりオリジナルなものにしています。
「Surf Ride to Oblivion」
細かい表現が見られます。こちらの作品は直径 61cm 。雲や松、金箔など日本的や表現も見られますが、描かれている人物が細かくて、しかも意味不明な行為をしていたりします。1つ1つじっくり観て楽しい。
「Surf Ride to Oblivion」(部分拡大)
重力がない、と言うより超広角の360度レンズで写したような世界です。異世界風でもありますが、元に「記憶」があるためか、妙な現実味もあります。よくよく観ると「何してるの笑」と突っ込みたくなる人物たちです。
細かい表現について、Tat さんはメトロポリタン美術館で観たイスラム美術の超細密画の印象を語ってくれました。インターネットの画像で見てもとても細かいイスラムの細密画ですが、実際の大きさはB5とか、A4くらいと言うので驚きです。
「Surf Ride to Oblivion」(部分拡大)
個人的にジャスパー・ジョーンズを想起させる「標的」のような円が中心にあります。「標的」に見えても本物の「標的」ではなく、それでも「標的」と捉えられるイメージ、という点で、ジョーンズの作品と、「自己」のフィルターを通した「記憶」上のイメージという Tat さんの作品とが、重なるようです。
また、日本酒を飲む時に使うお猪口の底の二重丸にも似ていると思いました。透明度を測るのに役立つと言われるお猪口の二重丸ですが、この作品では雲がかかって全貌が見えないところなど、ふわっとしてはっきりしない記憶を象徴しているのかも。
前述のイスラム美術の超細密画のように、小さめの画面に細かい表現が描かれた作品群です。作品サイズは 31cm * 23cm と、A4よりわずかに大きい程度です。
「Send Help (You cannot be a human)」
この作品には職場へと向かう道で見たものなどが集結しているそうです。そう言われると、元同僚として想起出来る実在の道が思い浮かびました。この「フィクションでなく実際の事柄から紡がれたビジョン」が、かえって夢の中のような表現を可能にしているところが面白いなと思います。夢も記憶を整理していると言いますし。
「Send Help (You cannot be a human)」(部分拡大)
K○WS っぽいのがいる、、、。
右上に見えるのは道端のう○こですかね、、、笑。
多くの鮮やかな色を使っているのにバランスが取れていて、かっこいい。
「Ministry of defence of the mind」
心の防衛省、、、?
なかなか鬱い日々だったのでしょうか? それでも作品にコミカルさを感じるのは、心の防衛省による防衛行為が功を奏した結果なのか。
「Ministry of defence of the mind」(部分拡大)
よく観るとヤバめな表現もあります。
右側の崖から伸びるオレンジ色のものは、気力のようなエネルギーの象徴で色によって性質も表されているそう。こちらはオレンジ色なので、陽のパワーなのかしら。
「Safety first」
安全第一。
80年代くらいのジャパニーズSF、スチームパンク感を感じる作品です。
「Safety first」(部分拡大)
この作品からは、都市伝説や空想科学などのサブカルチャー感が漂ってきます。
「Strike 451 (Please give me credit)」
華氏451度とは紙が自然発火する温度だそうです。うう、燃えている。炎上と言うべきか。何となく思い当たる出来事があるようなないような。まぁ、シンプルに燃えてますね。仕事上の炎上、というキーワードで連想していただければこの作品の解釈はバッチリだと思います。
「Strike 451 (Please give me credit)」(部分拡大)
拡大画像中央に見える鳥の「虚無」っぽい顔がツボ、という感想がありました。確かに。ツボってしまうと笑えてくる。某お菓子パッケージの平和そうな動物達とのコントラストもあって、とてもシュール笑。
「What will be, will be」
ビールを飲んでいい感じになっている人々に遭遇したエピソードが元になっているそうです。そう聞くと、画面下にはビールとそれに溺れている人々が。サイドの金属箔はグラスのふちでしょうか。
「Fly me to the moon from mars」
アメリカンコミック風です。精神面で楽しい絵?
「No surprises」
この作品は支持体がリネンで (他作品は紙) 海外出張の際にも持って行って描いていたそうです。リネンの方が丈夫なので、という理由もあったそうで、素材も含めて「自己の経験」に即した作品。
「No surprises」(部分拡大)
出張先はアメリカ〜カナダ。そこで目撃した差異など。でもタイトルは「No surprises」。
記憶の不確実さにフォーカスした作品を制作する作家や、無意識のうちに蓄積された身体の差をテーマにする作家もいますが、それぞれの結果として表現された作品が全く違うという、ある意味で当たり前のことがやっぱり面白いなぁと感じました。「他人とは違うことをしよう」と無理に意識するまでもなく、個人個人は生まれながらにして個性的である、と改めて教えてもらったような気がします。色々な偶然もあって、自分が経験することになった全てのことにも意味を見出せるような、とても前向きなパワーを貰えました。なかなかにおどろおどろしいものが描かれている画面でさえコミカルに感じたのは、Tat さん自身の、そんな物事の捉え方が作品に現れている、と言えるのかも知れません。
細かい表現や、金属箔を使いながらも調和の取れた色合い、構図の絶妙さなど実物を観てもらいたい展示です。ぜひ、足を運んでみてください。
展示風景画像:Tat Ito solo exhibition 「風の強い空と捕虫網と虫眼鏡」
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