中谷健一 個展 「驚異の部屋」
会 期:2023年3月17日(金) - 2023年3月22日(水)
時 間:13時-19時 (最終日18時終了)
場 所:弘誠堂ギャラリー
展覧会URL:
中谷健一さんは北海道出身、修復リペア職人でもあり、技術力を活かした作品制作をしています。誰もが知っている民芸品を、デジタル世界に召喚したような作品群です。
展覧会タイトルの「驚異の部屋」とはドイツ語でヴンダーカンマーと呼ばれ、大航海時代の西欧で好奇心のままに蒐集したコレクションの陳列室を指す言葉です。その際の大雑把な陳列区分が博物館などの分類の元になったとも言われています。また、他の用法として、映画「エイリアン」のコンセプトデザインで知られるH.R.ギーガーが家具などの調度品も含めて世界観を表現したギーガー美術館やギーガー・バー等を指して「没入型のヴンダーカンマー」と表現されたことがあります。
展示では、デジタルならではのノイズ等により元の形や色が変わってしまっている民芸品が、珍品のように陳列されています。完全な元の形でないにもかかわらずそれと分かってしまう = 脳内で補完が自動で行われる「誰もが見たことのある (気がする) 民芸品」の日本的な姿とSFの融合は、映画「ブレードランナー」や「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」で描かれた未来世界を彷彿とさせます。グリッチやポリゴンを目の当たりにしている鑑賞者の世界もまたデジタル上の世界なのではないか、その意味で没入型の空間、と言うことも出来そうです。人形使いに脳をハックされてないか、ちょっと不安になりました。
作品が置かれたそれぞれの台も中谷さんのディレクションによるものです。
「ひかり福助」
「ひかり福助」
「福助」という単語だけで、どの部分がそれか、分かってしまう。けっこう高速で動いている残像のようでもあります。
「君だけを見ている」
「君だけを見ている」
女の子を見る男の子の目が、どことなく驚いているように見えるのが面白いです。、、、というか、この「素焼きに着彩したような質感」を出す技術もすごい。この質感の緻密な再現があるからこそ、「どこかで見たことがある」「知っている」「おばあちゃんの家にあった気がする」という感覚を鑑賞者に喚び起こし、ポリゴン部分の違和感がより引き立ちます。
「テラゾークマ コーラル」
「テラゾークマ コーラル」
鮭を咥えた熊は中谷さんの出身地、北海道の民芸品として有名で、誰もが見たことのあるものです。「木彫りの熊」をアレンジしたシリーズは中谷さんの作品が話題になったきっかけのシリーズでもあります。
水平に入ったノイズがかっこいい、、、、。ヴンという音までイメージ出来る。
「エフェクト招き猫 Black」
けっこう形は崩してるのに、元の形が残像として見える。脳内補完してしまう、、、。
そして「陶器みたいな顔してるだろ。ウソみたいだろ。レジンなんだぜ。それで」と上杉達也のように言いたい。すごい。
「エフェクト招き猫 White」
顔はノイズ多めだけど、耳と、この角度から見て少ししか見えない招いてる手、だけでももう「招き猫」として十分に伝わる、キャラクターの強さ。皆が「芸術品として見ていないもの」、「嗜好品としても見ていないもの」に、そういった「強さ」がある。この現象は何なのだろうか。しかも、このノイズが入った姿のほうに、なぜか「かわいい」という感想さえ浮かびます。顔こんななのに。
「ブリック福助」
レゴと福助でこんな未来世界が表現出来るとは、知らなかった。
「岳」
この断面の、「揺らぎ」のリズム感とか、細かい部分から感じる現実感が、より非現実感を喚ぶ。
「木彫りの熊」と並ぶアイコン的存在、「信楽焼のタヌキの置物」をデジタル世界に召喚した「グリッチタヌキ」シリーズ。
「グリッチタヌキシュレディンガー」
「グリッチタヌキシュレディンガー」(部分拡大)
「グリッチタヌキUSA」
「グリッチタヌキUSA」(部分拡大)
「グリッチタヌキハードエフェクト」
「グリッチタヌキハードエフェクト」(部分拡大)
在廊されていた中谷さんにお話を聞くことが出来ました。もらったら少し困るなぁ、というような品を、かっこよくして「飾りたい!」ものにするには? という視点も、これらが生み出されるきっかけになったそうです。SFは大好きとのこと。
「オランダ木靴」
オランダ土産として人気の木靴が象られていますが、リーボックのポンプフューリー化しました。
「ジャスパー」
出世や成功のあやかり物として存在する「王将の飾り駒」。英国王室御用達ウェッジウッドのジャスパーシリーズのような風格をまとい、さらなる縁起が追加されたようです。
「ジャスパー」(部分拡大)
ジャスパーのイメージを借りてアレンジしたものという位置付けではありますが、実際にこういう商品がありそう、と思わせるほどの細部です。
「Jaket」
ジャケットとは、造形の過程においてシリコンで型取りする際に覆う硬い素材のことだそうです。この作品は、庭などに置かれるウサギの置物を型取りしようとした時に、ジャケットで覆った姿がかっこよかったために生まれました。
「Jaket」(別角度より撮影)
中谷さんに作品の後ろ姿を見せてもらいました。ジャケットでガッチガチに覆われているのに、庭にあるウサギの置物であるとちゃんと分かる。一体どこで見たんだろう? そんなに見る機会はなかったと思うのですが、、、? やはり脳をハッキングされている?
「セルベアー」
「セルベアー」
足元に塗料が垂れている表現なのですが、ひょっとしたら垂れているのではなく、この液状の物質からにゅるにゅるっとセルが構成されてベアが形作られた、という映像が想像できます。液体金属製だった「ターミネーター2」のT-1000のような。
この発想はなかった、という楽しさもありますが、全く別の素材で制作しているのに元の民芸品そのものに見える表現力や技術力の高さがあってこそ実現した作品群でもあります。
また、「実用品でもなく、芸術品でもなく、(もらったら少し困るなぁ、ということから) 嗜好品とも認識されていない民芸品」であるにもかかわらず、日本人のDNAに刷り込まれているのだろうか? と疑いたくなるくらい脳内で元の姿を補完出来ることから、記号やキャラクターという観点からも深く掘り下げていける展示と言えるかも知れません。
そして今いるこの世界の「実存」とは何なのか? 全てはデジタルのような「空」、という考えにも導いてくれます。世界のバグ、たまに遭遇しますよね?
技術を見て感嘆するも良し、深く考察するも良し、SF世界にとことん入り込むも良し。ぜひ、足を運んでみてください。
展示風景画像:中谷健一 個展 「驚異の部屋」2023 @弘誠堂ギャラリー
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