八木恵梨 個展「TABLE MANNER LIFE, SAVE, AH~ #8」
会 期:2023年9月9日(土) - 2023年10月1日(日)
時 間:12:00~19:00
休 廊:火水木
場 所:RitsukiFujisakiGallery
展覧会URL:
八木恵梨さんの感想記事の頻度が高い? いいじゃないですか、私はもっと自分の嗜好で偏りまくったサイトにしていきたいと考えているところです。情報の多様さで勝負したら大手メディアに負けますから。要は作品が好きってことで。
初めてこのブログサイトを訪れた方のためにも八木さんご本人の略歴と、その作品「LIFE, SAVE, AH~」シリーズについて、まず簡単に書かせていただきたいと思います。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
八木恵梨さんは1994年生まれ。武蔵野美術大学造形学部油画科卒業、東京藝術大学大学院油画技法材料第一研究室修了、2018年より東京藝術大学・大学院博士課程油画技法材料第一研究室に在籍。四谷未確認スタジオで制作等、東京を拠点に活動されています。
八木さんの作品は、テクニカルイラストレーションという「技術的な性質の情報を視覚的に伝達する技法」を取り入れており、鉛筆と水彩絵の具を用いた、研ぎ澄まされたシンプルな線と色が特徴です。テクニカルイラストレーションは、例えば、電化製品の説明書のイラストなどが当てはまります。機能や使用方法が見て分かる、というものです。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「LIFE, SAVE, AH~」シリーズとは
泥酔した際に見た幻の男性「ライフセイバー」のことが忘れられず、その曖昧な輪郭の幻の男性を繰り返し描き、妄想的に発展させた物語を制作。そうするうちに、八木さんの興味の対象は、「幻の男性 = ライフセーバー」自体から、それに執着する自分自身 (物語の中では「スイムキャップ」という、八木さんの別人格という女性) へと移行していきます。妄想や陰謀論など、特定のイメージに執着・依存・没入・固執する状態と、それを俯瞰・客観視するような状態が多層的に現れる作品群です。
海辺を舞台にしたライフセーバーとスイムキャップによるオリジナルの物語は、ある種の神話にまで昇華されています。ゆえに作品に描かれるアイテムは、キリスト教圏のいわゆる美術史に登場する寓意とは異なる、まったく新しい意味合いを持つものとなっています。善人として登場するフック船長のフック、神楽を舞う際に着用する「神聖な衣服」としてのライフジャケットなどです。
極めて個人的なものから生み出された作品には、上述した「特定の人物への執着」や「陰謀論を信じる者の心理」といった普遍的な問題を含有しています。まるでゲーム内アイテムのフレーバーテキスト (※) からゲーム全体の世界観を探ってしまうように、鑑賞者をその神話内に引き込んでいく魅力を備えています。
※フレーバーテキスト……トレーディングカードやゲームのアイテム説明に書かれる、使用法や実際の効果・ルールなどには直接関連 しない 文章のこと。世界観や雰囲気を表現するために用いられる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ということで、前回の八木さんの感想記事→ 感想 八木恵梨&山﨑愛彦「平面世界のレトリック」八木恵梨 編 で、私はテーブルクロスの格子柄について、以下のような考察をしました。
・格子柄は「セーマンドーマン」の格子状の印(ドーマン)を表しているのではないか
・海面のメタファーでもある
そして、感想記事をUPした後に八木さんご本人から嬉しいご連絡をいただき、その中でこの「格子柄」については「2018年から出現していてかなり複雑化している」というお話がありました。本展「TABLE MANNER LIFE, SAVE, AH~ #8」の期間中にお会い出来るか尋ねたところ、なんとお時間をいただけたのです。想像してみてください、フロム・ソフトウェアの宮崎英高さんが語ってくれると聞いたら、何がなんでも会いに行くでしょう。

うっ、このマーク。前回の考察感想記事では、実は分からなくてさりげなくスルーしたんです、、、。
下記画像のみ、前回の感想記事 ” 感想 八木恵梨&山﨑愛彦「平面世界のレトリック」八木恵梨 編 " より
「On the same table cloth#3」(部分拡大)
本展「TABLE MANNER LIFE, SAVE, AH~ #8」ではこのマークがウィンドウと、ギャラリーに入ってすぐ目にするところに展示されています。
よく見ると、ビニルにはミシンによるエンジ色のフチ取りが。これは前々回の感想記事の展示「LIFE, SAVE, AH~ #6」で展示されていた「Crazy Wall」の一つ一つのパーツと同じつくりのようです。Crazy Wallとは FBI や刑事事件もののドラマでよく見る、人物や物品の写真を貼ったり、文字や矢印などで関係を示したりしているホワイトボードのことです。本展では、背面が鑑賞者自身を映しだすミラーシートになっているため、まるで鑑賞者が探偵かつ物語の当事者になったかのように感じます。実は、ここのミラーの話は聞き忘れたので私の考察です。そう言えば、緑がキーカラーのようだけど、それも聞き忘れてしまった、、(肝心なことを聞けてない) 。
下記画像2点、前々回の感想記事 " 感想 八木恵梨 個展「LIFE, SAVE, AH~ #6」後編 " より
「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)
もちろん、件のマークの意味は伺ったのですが、今回の展示タイトル「TABLE MANNER LIFE, SAVE, AH~ #8」の「TABLE」のお話を聞くうちに、「これはこうです」と言ってしまうことへの疑問が私の中で大きくなっていきました。
イコノロジー (図像解釈学) の祖、アビ・ヴァールブルクが晩年に取り組んだ『ムネモシュネ・アトラス』は、黒いスクリーンが張られた等身大のパネル六三枚の上に、古代から二〇世紀にいたるまでのヨーロッパの美術を初めとするさまざまな九七一点のイメージ (古代の占星術図像から20世紀の報道写真を含む) を並べその配置を換え続けた、未完の制作物です。これによりヴァールブルクは、数千年に渡るヨーロッパ文化のうちに蓄積されたイメージの歴史、記憶の全体像を把握可能にする地図帳を作り出そうとしました。現物は失われましたが、これを撮影したものが残っており、今もなお、多くの研究者により研究が続けられているものです。
「これはこうです」と言ってしまった先には、言葉による記憶しか残りません。描かれたアイテム自体がもつ意味を限定してしまう行為のように思います。
、、、ということで、本展の展示作品それぞれに、無謀ながら私自身が「フレーバーテキスト」を書くことにしました。そうした先に、前掲の不思議なマークや格子柄の意味するものが浮かび上がってくればいいな、と思っています。(これは私の勝手な判断なので八木さん公認のテキストではありません!) いや、本当に無謀、、、笑。
さずがに無謀が過ぎるので、以下のタロット解釈本を参考にしています。タロットには、キリスト教絵画で用いられる象徴が描かれていたり、カバラの思想に基づいた数字や生命の樹の解釈が含まれていたりするので、タロット占い師が八木さんの作品をどう読み解くか? やってみたら面白いかもしれない、という思いつきからの試みです。
啓示タロット イーデン・グレイ 星みわーる = 訳 郁朋社 2002年
皆伝タロット イーデン・グレイ 星みわーる = 訳 郁朋社 2005年
自在タロット イーデン・グレイ 星みわーる = 訳 郁朋社 2007年



「Watchtower_LIFE, SAVE, AH~ (hand power) 」
「Watchtower_LIFE, SAVE, AH~ (bunch) 」
「Watchtower_LIFE, SAVE, AH~ (wet) 」
「Watchtower_LIFE, SAVE, AH~ (hole) 」
「Watchtower_LIFE, SAVE, AH~ (sunset and burning heart) 」
「Watchtower_LIFE, SAVE, AH~ (siren and beans) 」
道標。
これを用いて測量が実行される時、あなたは次のことに注意しなければならない、すなわち、すべての声をさらう嘆きと、鬼による印である。印はここでは数字となって現れる。数字は理想が形になる前に壊そうとするだろう。善人の助けがわずかにある。
「Watchtower_LIFE, SAVE, AH~ (siren and clip) 」
「Watchtower_LIFE, SAVE, AH~ (CA and cosmos and goat) 」
「Watchtower_LIFE, SAVE, AH~ (sickle) 」
「Watchtower_LIFE, SAVE, AH~ (balloon man) 」
「Watchtower_LIFE, SAVE, AH~ (duck measuring height) 」
「Watchtower_LIFE, SAVE, AH~ (fairy) 」
「Watchtower_LIFE, SAVE, AH~ (raw egg) 」
「Watchtower_LIFE, SAVE, AH~ (golden hook) 」
「Watchtower_LIFE, SAVE, AH~ (Xmas stoking and twinkle) 」
「Watchtower_LIFE, SAVE, AH~ (psychokinesis) 」
「Watchtower_LIFE, SAVE, AH~ (fishing hook and breath) 」
、、、なんのこっちゃ?、となる可能性も高そうですが、それぞれ登場するアイテムの答えを用意した上で記述してみました。さらなるヒントになりそうなものを下記に並べておきます。展示会場で閲覧できるファイルや、八木さんとのお話から検索したページ、私が妄想を膨らませるために参照したページ、スピリチュアル界隈で言われている象徴、などです。ヒントになるかもしれないし、新たな謎が生まれるかもしれません (繰り返しになりますが、本展の展示作品のフレーバーテキストは、私独自の解釈がかなり含まれます) 。
ただ一つ言える事は、八木さんはさまざまな過程を経て、実践と無意識の領域を行き来しながら、世界の内と外を多層的に重ね合わせてこの神話を作っている、ということです。
そして、鑑賞者である私がまるで陰謀論者のように、独自の解釈を加えてどんどん突き進んでいってしまうことこそが、この展示が現代を反映するような普遍性を獲得している、という面白さにも繋がっています。

・Dave Fromm Channel[永久保存版]最古のタロットを紐解く禁断のアリ-Sola Busca Tarot 【陰謀コーナーベストセレクション】
・The Graphic Design Review 書体は作者の罪を背負うか エリック・ギルをめぐって 大曲都市
・トマトちゃん/ゲーム総合【エルデンリング】ハーピィの歌を翻訳してみた【嘆きの歌:Song of Lament】
・Lani 金色(ゴールド)の意味・効果・スピリチュアル【カラーセラピスト監修】
・SPIBRE【夢占い】鎌(カマ)の夢に関する12の意味とは
・HANKYU FOOD おいしい読み物 イースターについてまるわかり!意味や起源をくわしく解説
また本展では、作品の大きさがP3号に統一されており、一般的なF規格の縦横比よりも「細長い」印象のP規格が採用されています。そのことによって、まるで世界を「覗き見」しているような効果が加わっています。
鑑賞者に、全体の一部しか提示されていないと気づかせること、さらにその全体像を把握したいと思わせることというのは非常に難しいと思いますが、作品の端にまで気が配られた、純粋な「絵的構図の妙」も八木さんの作品の魅力となっています。シンプルに絵が上手い!
各アイテムに「無意識下に存在するイメージ」を各自がイメージのまま受け取り、知らないうちに白昼夢の中へと誘われるような展覧会だと思います。メインのマークの意味や格子柄、緑色の意味も考えながら、ぜひ、味わいに訪れてみてください。
展示風景画像:八木恵梨 個展「TABLE MANNER LIFE, SAVE, AH~ #8」RitsukiFujisakiGallery, 2023
関連記事
関連商品リンク
コメントをお書きください