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感想 香月恵介 個展「ANGELS」

 

香月恵介 個展「ANGELS」

 

会 期:2023年11月2日(木) - 2023年11月26日(日)

時 間:12:00-19:00

休 廊:月

場 所:EUKARYOTE

展覧会URL:

https://eukaryote.jp/exhibition/keisuke_katsuki_solo_ex_2023/


 

毎回、生成AI に親でも◯ろされたんか? ってくらい、生成AI を使って描いた絵に対して嫌悪感を感じている私です。どこが気に食わないかと言うと、創作行為に対するリスペクトが全く感じられない、ってところ、でしょうか?

 

しかし、新しいツールとして生成AI を使う作家も出てくるだろうし、リスペクト出来る作品も登場してくるだろうな、などと思っていたのですが、もうそんな作品に出会いました。それが本展「ANGELS」の1階、2階部分に展示されている作品群です。

 

香月恵介さんは 1991年生まれ、東京造形大学 造形学部美術学科絵画専攻 卒業、東京造形大学大学院 造形研究科美術専攻領域 修了。「見ること」や「見えるもの」を考えさせるような作品を「現代のメディウム」を用いて制作しています。本展の 3階には、「Pixel Painting」と「Gray ; Noumena」の作品群が展示されています。

 

 

 

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モニターに映る図像の発光をRGBに分解し、絵具によって物理的に置き換える「Pixel Painting」

( EUKARYOTE 香月恵介個展「ANGELS」Information より抜粋 )

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「Calais Sands at Low Water: Poissards Collecting Bait 1830」

タイトルから、これは1830年に発表されたウィリアム・ターナーの作品「Calais Sands at Low Water: Poissards Collecting Bait」に由来していると思われます。元の作品を、まるでブラウン管のテレビ画面に近づいた時に見えるようなRGB (赤・緑・青) の色の固まりで表現しています。「Pixel Painting」は「液晶ディスプレイのピクセルのRGBを絵の具に置き換えて制作した絵画」(引用元:FAVORRIC 香月恵介 INTERVIEW)だそうですが、私は、液晶ディスプレイよりブラウン管で観た映像のイメージを想起してしまいました。世代でしょうか?

 

ターナーこの作品は、画面左側に沈んでいく夕陽の光が、右側には明日の漁のための餌を最終している人々の様子が表現されています。ターナーの父親は1829年に亡くなっており、愛する者の死と、淡々と続いていく人生との対比、というような解釈がなされています。

→参考ページ:Art UK ARTWORKS Calais Sands at Low Water: Poissards Collecting Bait

 

 

「Calais Sands at Low Water: Poissards Collecting Bait 1830」(別角度より撮影)

見る角度によって、違った色合いに感じます。チカチカする感じが、ブラウン管のTVを知っている世代としては、懐かしいような。

 

「Calais Sands at Low Water: Poissards Collecting Bait 1830」(部分拡大)

立体的に塗られたRGB色の絵の具。すごい、、、。


 

 

 

「Nymphéas 1908」

「Nymphéas 1908」はクロード・モネが1908年に発表した睡蓮の作品のことかと思われます。

→参考画像:Wikipedia File:Claude Monet - Nymphéas (1908).jpg

 

モネがなぜ睡蓮を描き続けたかという考察が色々なされていますが、亡き最愛の妻カミーユを想い (色々あって) 、極楽浄土に咲く蓮の花を描き続けた、という意見もあります。

→参考動画:YouTube 山田五郎 オトナの教養講座 モネ「日傘をさす女」消えた少年【山田五郎が解説】 10:00〜

 

先ほどのターナーとモネのこの 2作品は「光の表現」というところと「愛する者の死」という点で共通しているのかもしれません。

 

Nymphéas 1908(別角度より撮影)

後で紹介する1階、2階の作品に通じるような、何か霊魂のようなものが赤く写ってしまったような印象を受ける画面です。移動しながら見ると、チラチラします。

 

Nymphéas 1908(部分拡大)


 

 

 

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混ざり合う色彩のメディウム=色材的灰色と、ランダム生成された仮想物としての光学的灰色の数値をキャンバス上に混成させた「Noumena」

( EUKARYOTE 香月恵介個展「ANGELS」Information より抜粋 )

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左:「Gray ; Noumena #14」 右:「Gray ; Noumena #15」

 

「Gray ; Noumena #14」(部分拡大)

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「Gray : Noumena」にはCMYによって作り出された混色状態の灰色の色面に、ディスプレイ表示における理論値であり本来は吸収されているはずのRGB輝度値が表示されている。私がこの灰色の色面を作り出す際には垂直、水平にCMYの色材を引き伸ばして混色している。また、水平垂直はモニターの画面表示構造であるピクセルに基づいており、液晶破損時に起こる線的な画面の壊れ(グリッチ)に似た表面を作り出すことができる。

(FAVORRIC 香月恵介 ART01 より抜粋)

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Gray ; Noumena #15」(部分拡大)

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その上にある数値は256色x3の組み合わせによるところの中間に値する数値をランダムに生成した灰色のイデアなのである。

(FAVORRIC 香月恵介 ART01 より抜粋)

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「Gray ; Noumena #10」

 

 

 

「flash #4」

 

「flash #4」(部分拡大)

タイトルを見るとこちらの作品はGray ; Noumena シリーズとはまた違うのかもしれません。支持体の素材表記は「paper」となっていますが、紙の端を見ると、手漉きか機械漉きかはまでは分からないものの、漉いた跡のようなガタガタの端になっていました。


 

 

 

 

 

本展のメイン、生成AIを使用した作品は1階、2階に展示されています。

 

 

 

まずは1階から。

 

左:「Angels #5」 右:「Angels #8」

 

 

 

「Angels #1」

 

 

 

左:「Angels #11」 右:「Angels #4」

 

会場は暗く、作品にはスポットライトが当てられていて、かなり雰囲気があります。この雰囲気も作品の文脈に沿ったものになっているようです。

 

 

「Angels #4」

この写真、ガラスに印画、、、?

 

 

 

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アンブロタイプとは19世紀半ばに確立された写真技法で、薬品を塗布して作られたガラス板上の感光膜に露光し影を記録させ、背後に黒い背景を置くなどして板上のボジティブ像を視覚化させます。

( EUKARYOTE 香月恵介個展「ANGELS」Information より抜粋 )

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本展はこのアンブロタイプという技法が用いられているんですね。明治初期の日本では「湿板写真」「ガラス写し写真」などと呼ばれていたそうです。

 

 

 

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黎明期の写真技術では、その制作工程と制御の複雑さから入り込む誤差に加え、当時のスピリチュアリズムの影響から超自然的なイメージが見出され、更に意図的に心霊的イメージを映し出すことが試みられてきた背景があります。

( EUKARYOTE 香月恵介個展「ANGELS」Information より抜粋 )

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意図的に心霊的イメージを映し出すことが試みられてきた、、、本展のこの雰囲気ある演出はその意図に沿ったものだったのか。

 

では、生成AI の部分はと言うと、、、

 

「Angels #4」(部分拡大)

この、モニタやタブレット、スマートフォンの画面に写っている画像が生成AI によるもののようです。

確かに、心霊的なものが写っているように見える。

 

「Angels #4」(部分拡大)

これなど、、、首がない子、いません?


 

 

 

一度そう思うと、細かい部分がすごく気になってきます。

 

 

 

「Angels #8」

 

「Angels #8」(部分拡大)


 

 

 

「Angels #5」

 

 

 

「Angels #1」


 

 

 

「Angels #11」

 

 

 

 

 

2階へ移動します。

けっこう真っ暗な中、階段を登り始めるとセンサーで点灯する照明が反応して、ちょっとビックリしました。いやぁ、こういうところも含めて世界観を楽しめる展示っていい!


 

 

  

 

 

わぁー、心霊写真がたくさんだぁー。

 

 

 

 

 

「Anima #3」

 

 

 

「Anima #9」


 

 

 

「Anima #30」

 

 

 

「Anima #28


 

 

 

「Anima #19」

 

 

 

「Anima #18」


 

 

 

「Anima #36」

 

 

 

「Anima #12」


 

様々な種類の「心霊っぽいもの」が写っているようで、どれに一番「心霊っぽさ」を感じるか、も個人差がありそうで、興味深いです。

 

 

 

 

 

「Angels #10」

 

「Angels #10」

 

 

 

「Anima #1」


 

 

 

左:「Angels #12」 右:「Angels #3」

 

 

 

「Angels #12」

 

 

 

「Angels #3」


 

 

 

「Anima #44」

 

 

 

「Anima #25」

 

 

 

「Anima #4」


 

 

 

この、生成AI と超自然的なイメージ との関係について、香月さん本人のテキストがEUKARYOTEさんのページに掲載されていました。以下、転載します。 

 

 

 

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AI においてハルシネーション (hallucination / 幻覚) という現象がある。これは画像生成においても等しく起こっており、画像の学習過程で誤った学習をしたモデルは指示対象に異形を見出し、実在しない (自然模倣ではあり得ない) 不自然な画像を提示する。これは前述したシミュラクラ現象と結果的にほとんど同義に見えるものの、決してAI が幻覚を見ているわけではない。

( EUKARYOTE 香月恵介個展「ANGELS」Information より抜粋 )

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シミュラクラ現象とは、天井のシミが人の顔に見える、的なことで、人間が本能的に敵味方を判断したり感情を理解するためにまず目を見る習性と関係して、逆三角形に配置された3つの点等をみると顔と認識してしまう現象のことを言います。顔認識システムなどで、顔ではないものを顔認識されてしまうことと似ている、、、?

 

 

 

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AI が神を認識することはなく、アルゴリズムによって似通った画像のみが作られる。AI は対象を認識して画像を生成してはいないのである。常に類推と計算によって擬似的なイメージが生成される。

超越者は遥か昔にのみ存在しているため、過去に生み出された超越者たちのイメージはAI によって継ぎ接ぎの ”新しい天使” へと組み替えられていくことになる。

( EUKARYOTE 香月恵介個展「ANGELS」Information より抜粋 )

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ここでの ”新しい天使” とは、後に出てくる「ベンヤミンの「歴史の天使」」という言葉から、パウル・クレーの作品「angelus novus」を指しているようです。本展のタイトル「ANGELS」もこの「歴史の天使」に由来しているもの、という投稿を見ました。

 


 

 

 

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データセットは常に過去にあった画像にテキストを合わせたものの集合であるが、ロラン・バルトが言うところの「それは=かつて=あった」という写真の本質解釈を想起させる。写真 ≒ 画像に写っている指向対象をテキストによる記号化を施して整理してゆくことで、計算機械の範疇に置くことができる。果てしない数の「それは=かつて=あった」を積み重ねてゆくことで、AI の性質が決定づけられてゆく。

( EUKARYOTE 香月恵介個展「ANGELS」Information より抜粋 )

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ロラン・バルトの『明るい部屋』については、本ブログサイトでも感想を書いてます。「それは=かつて=あった」にはほとんど言及していない記事ではありますが笑、あわせてご覧ください。

→参考記事:【おすすめ アート本】明るい部屋 写真についての覚書

 

 

 

 

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気づけば私はベンヤミンの「歴史の天使」を画像生成AI に重ね合わせて追慕していた。生成した画像から更なるデータセットを生み出し「それは=かつて=あった」を軽々と逸脱してゆくであろうその様は、さながら天に届くような廃墟の山に滞留しようとしながらも抗えず未来へと運ばれてゆく天使のように見える。

( EUKARYOTE 香月恵介個展「ANGELS」Information より抜粋 )

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参考:

パウル・クレー「angelus novus」(1920)

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新しい天使 アンゲルス・ノーヴス 」と題されたクレーの絵がある。そこにはひとりの天使が描かれており、その天使は、彼がじっと見つめているものから、今まさに遠ざかろうとしているかのように見える。彼の目は大きく見開かれており、口はひらいて、翼はひろげられている。歴史の天使はこのように見えるにちがいない。彼はその顔を過去に向けている。 われわれには ・・・・・・ 出来事の連鎖と見えるところに、 彼は ・・ ただひとつの 破局 カタストロフィー を見る。その破局は、次から次へと絶え間なく瓦礫を積み重ね、それらの瓦礫を彼の足元に投げる。彼はおそらくそこにしばしとどまり、死者を呼び覚まし、打ち砕かれたものをつなぎ合わせたいと思っているのだろう。しかし、嵐が 楽園 パラダイス のほうから吹きつけ、それが彼の翼にからまっている。そして、そのあまりの強さに、天使はもはや翼を閉じることができない。この嵐は天使を、彼が背中を向けている未来のほうへと、とどめることができないままに押しやってしまう。そのあいだにも、天使の前の瓦礫の山は天に届くばかりに大きくなっている。われわれが進歩と呼んでいるものは、 この ・・ 嵐なのである。

(ヴァルター・ベンヤミン著 山口裕之編・訳「歴史の概念について」『ヴァルター・ベンヤミン. ベンヤミン・アンソロジー』2015)

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まさに、昨今の生成AI の進歩という現象は、打ち砕かれた瓦礫の山をつなぎ合わせたいと思っても嵐のような激しさで未来のほうへと押しやられる感、をこれでもかというくらいに私に実感させました。今もしています。進歩とはこういうものなのか。

(2022年3月の時点では、少し面白半分で楽しんで遊んだりもしたのに、、、参考記事:【AI と アート】AIが絵を描くことの限界が見えた? 適当に卵とバンド名でやってみた。)

 

 

 

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私は天使の自画像を手の中におさまる形で、取りこぼした何かを掬い取るように、祈るように、撮影することにした。

( EUKARYOTE 香月恵介個展「ANGELS」Information より抜粋 )

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「Anima #9」

 

 

 

 

 

写真は真実を写しているのかというと、初期の頃から、心に強い印象を残す写真作品は「演出」されていた、という話があります。それらと、生成AI の「真実でない」画像と何が違うのか、という疑問もないわけではないです (まぁフェイク画像は良くないですけど) 。

 

私たちは「真実」よりも「見たいものしか見ない」のかもしれない。

 

 

 

生成AI を「歴史」の観点から捉えている、という意味でも意義ある展示と思います。そして、神秘的で面白い。

 

ぜひ、足を運んで体感してみてください。

 

 

 

 

 

展示風景画像:香月恵介 個展「ANGELS」EUKARYOTE, 2023


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